第18話
「それで、今日はどこに向かいますの?シャルロッテ様、ベアトリクス様」
「ノン、ノン!アリィ殿、我らのことはシャルとビーアと呼んでくだされと常々申しているではありませぬか。我らがアリィ殿を愛称で呼んでいるのに、敬称付きの本名で丁寧に呼ばれると悲しくなりますぞ」
ベアトリクス子爵令嬢が眉をハの字にして切なげな顔をする。ああっ、中身は人形を見つめてグヘグヘ涎垂らしている趣味が飛んでる人とわかっているけど、妖精のようなその姿にカモフラージュされて、そんな泣きそうな顔をされると何でもしてあげたくなってしまうっ。
「そ、そうですわね。じゃっ、じゃあ、シャル様...とビーア様、今からどちらに行くのかしら?」
私が名前を愛称に言い直すとシャル様とビーア様は嬉しそうに目を合わした。たぶん、この世界でも本当の町娘達は愛称にすら「様」はつけないんだろうけど。さすがに貴族相手に呼び捨ては慣れなく、愛称に様付けの形となってしまった。
「これですわ。アリィ様。今日はこれを買いに行こうと思いまして」
落ち着いて聞き直した私にシャル様が薄い雑誌を渡してくる。
「なになに?......月刊OJOSAMAー臨時特別号♡今流行の最先端ファッションで意中の相手を恋の魔法に落とす方法ー』??」
題名長っ。
「そうなのだ。そして私とシャル殿が気になっているのはこの商品でありましてな。」
パラパラと私の向かい側から手を伸ばしてビーア様がページをめくった。
そして開かれたページに描かれた商品を見て、私は固まってしまった。
「こっ、これは一体......?」
雑誌を持ったまま真っ白になって固まる私にシャル様が目をキラキラさせて拳を握る。
「もちろんアリィ様がブリスタス公爵邸のパーティーで着ていらっしゃったドレスですよ!今沢山の商会から同型の服が作られているんです」
「はああぁっ!?な、な、な、何でぇっ!?」
「アリィ様、何でではありませんわ。動きやすい素晴らしい衣服であると女騎士連中の間でも大変人気なのですよ。丈は短めで下にタイツを履けば戦闘が起こってはだけても安心らしく、わたしも是非1着購入したくて」
あなた、ドレス着て戦闘するつもりですか?
いや、そうじゃなくて、そういう問題じゃなくて。
なんで改造ドレスが雑誌に!!
「私はこの猫模様生地の数量限定ドレスパジャマを購入したくてですな。」
ビーア様が指差したページには、私がブリスタス公爵邸に身に纏って行ったエンパイア型ドレスの形をアレンジした薄いネグリジェのような夜着が載っていた。
ドレスパジャマは薔薇模様やグラデーションなどいろいろな種類が描いてあるようだ。
この世界の一般的な夜着は白地の肌着のようなもので、くびれや締め付けのない薄いワンピースが主流なのだ。だから雑誌に描かれている柄付きレース付きのドレスパジャマは画期的な商品と言えそうである。
「あら、可愛い。これは売れそうなデザインですね......ではなくてっ!な、なぜ私が着ていたドレスに似たものばかりが雑誌に載っているんですかあぁぁっ!?
そもそも以前貸していただいた雑誌にはプリンセスラインドレスが流行最先端と書いていたはず...!!」
雑誌を持つ両手が困惑でプルプルと振るえている私にロナポワレ家の執事ユリアンさんがにこやかに答えた。
「常に流れ行く故に流行と書くのでございますなぁ」
名言かいっ!
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