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王子と私の婚約破棄戦争  作者: 翡翠 律
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第17話


◇◇



「アリィ様?どうなさったの?」


 右隣の彼女は濃い栗色の長い髪と赤茶色の瞳、そして服装はよくある町娘が着る足首のでた簡素なワンピースを着て私を心配そうに伺っていた。


「先程から何やらぷるぷると震えていらっしゃいますぞ。一体どうされた?アリィ殿」


 そして、一風変わった話し方の前方に座る彼女は肩までの黒髪にペールブルーの瞳、そしてこぢんまりした鼻の上にずり落ちそうになっている金縁の華奢な眼鏡をかけている。彼女もよくある町娘の服を着ていて、私を見て不思議そうに首を傾げていた。


「...............ですわ」


「「 え?? 」」


「奇襲を.........


 奇襲をかけたら、返り討ちにあったのですわっ!」



「「 はぁ??」」



「なんででしょうかっ!?なぜなんでしょうかっ!シャルロッテ様っ!!ベアトリクス様っ!!私、先日のガーデンパーティーでは必死で策を考えましたのにっ!ベアトリクス子爵令嬢様にも本をお借りしたり!ポトナスの店まで行って!いろいろ考えましたのにっ!!

 殿下ってば、あんな......抱き、抱きしめ......抱きっ、あああああぁっ!?ダメだわ!!思い出しただけで奇襲作戦を破られた悔しさのあまりに顔が赤くうぅぅぅぅ!!」


 私が先日のブリスタス公爵家での惨敗劇を思い出して顔を両手で覆うと、右横と前方からはぁと呆れたようなため息が聞こえた。


「つまり、レオンハルト様との惚気ということですね」


 中性的な(かんばせ)の口角を上げ、仕方ないなぁと笑うシャルロッテ・フラナン伯爵令嬢。


「なるほど、色事を思い出して顔が赤いのですな」


 一見頭を撫でたくような童顔なのにこの世の全てを知り尽くしたかのような利発な瞳をきらりと光らせ眼鏡を指で押し上げうなずくベアトリクス・ロナポワレ子爵令嬢様。



「ちっ、違うからあぁぁぁぁ!!!」



「まぁまぁ、落ち着いて。アリィ様。

 それにほら、今はわたし達は伯爵令嬢でも子爵令嬢でもないわ。」


「そう!いま我らは...」



「町娘A、町娘B、町娘Cでございますっ」



 ロナポワレ子爵家の老執事がにこやかに言った。



「そうなのだ!じいや!!

 さすが我がロナポワレ子爵家が誇る家老ユリアン!

 素晴らしい合いの手だ!


 我らは今、町娘Aアリシア町娘Bベアトリクス町娘Cシャルロッテなのだ。

 アリィ殿!我らに与えられた自由時間は限りがありますぞ。」


 ベアトリクス様の言葉に私はハッとした。


 そうだった!!

 今私は友人である彼女達とお忍びで街へとくり出していたのだったわ。

 

 ガタゴトとロナポワレ家のお忍び用馬車がゆれる。


 私の対面に座っていて、揺れる度にウィッグがずれていないか髪に手をやる童顔の彼女はベアトリクス・ロナポワレ子爵令嬢。

 今はウィッグをつけていて髪の色が黒いけど本当の髪の色はパステルピンク色。前世ではあり得ない色だけど、彼女のペールブルーの瞳にパステルピンクの髪はとても合っていて、まるでファンタジー小説にでてくる妖精のような容姿。


「ぐひひ。新作のにゃん人形が来月出ましてな。それを記念して推しニャンの煌々収集交換札(キラキラトレカ)(羊皮紙仕様)が明日先行発売されるのであります。申し訳ないが今日は早めに帰ってですな。ぐふふ」


 ちょ、ちょっと変わってる(趣味が濃い)が、見かけだけはかなりのロリ系美少女である。


「明日に備えて寝るのですか?」


 シャルロッテ様が問うとベアトリクス様はいつもは俯きがちな顔を高く上げ、ペールブルーの瞳を輝かせて拳を握った。


「いえいえ、早く帰って保管用袋(スリーブ)の準備と、推しニャンの団扇の補修をせねばならんのです!」


「店頭に並ぶだけなのに何故推しの団扇がいるのか理解し難い......。」


 眉を寄せ頭を抱えるシャルロッテ・フラナン伯爵令嬢はベアトリクス様とは対称的な長身の美形だ。

 いや、もう美少女というより彼女は美形なのだ。栗色の長いウィッグの下の髪は白金色(プラチナ)の長い髪、長い睫毛が縁取る赤茶色の瞳は細く切れ長で涼やかな中性的な美しい顔をしている。


 フラナン伯爵家は代々騎士を輩出している家系で、彼女を含め彼女の兄弟姉妹は全員剣術馬術に明るい。そして兄弟姉妹の中でもとりわけ剣術の才に秀でていたのがシャルロッテ様なのだが、いまだ女騎士というのは数が少なく活躍の場が少ないそうで、フラナン伯爵は「何故女に生まれたのだ...。」とシャルロッテ様を見るたびに男泣きをするそうだ。


 ひょんなことから仲良くなることができたベアトリクス様とシャルロッテ様なのだが、実は彼女達は『5人の王子と謎めいた王宮』のゲームシナリオには出てこない。

 そう、つまり彼女達はモブですらないのだ。


 だから私にとって彼女達と過ごす時間は破滅エンドのことを忘れさせてくれる貴重な時間。

 彼女達は私が悪役令嬢アリシアであることを忘れさせてくれる貴重な友達なのだ。

◇翡翠の小説好きだよーと思ってくださった方、ブックマークや☆評価していただけたら執筆頑張れます。

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