第2話
物心ついたころから私は他の子供たちと少し違っていた。
もちろん先祖に王家の血をひく公爵家ということもあり、容姿や頭脳は王族貴族からより良い遺伝子だけを歴代続く政略結婚によって掛け合わせられたのだから一般の人々よりも際だって良い(と思う)。
しかし、私が他の子供たちと違う部分はそのことを指しているのではない。
5歳の誕生日を迎えるまでは私はごく普通の貴族の令嬢だった。
そう、あの日、私の誕生日の日に王城から帰ってきた私の父が5人の王子たちの婚約者候補の1人に私が選ばれたことを告げたあの瞬間までは。
『私のアリィ!アリシア!君が王子たちの婚約者候補の1人に選ばれたぞ。素晴らしいことだ!』
父であるガーラント公爵が満面の笑顔で私を抱き上げた瞬間、幼い私は激しい頭痛に襲われ、前世の記憶が私に流れ込んできたのだ。
ーー満員電車に揺られ、もうすぐ次の日になってしまうギリギリの時間に自宅に着く前世の自分。
むくみまくった足をヒール靴という足枷からはずすと社内で浴びた上司からの罵詈雑言をいつもシャワーで全部洗い流してリセットしていた。
部屋着に着替えた私は帰宅途中で買ってきたコンビニの期間限定サンドを頬張りながらスマホにイヤホンをさしてアプリを起動させる。
やたら荘厳な音楽が流れ、画面に映っていたのは。
そう、私が今生きているこの世界だった。
つまり、私はなんらかの理由により(絶対過労だと思う!)前世で死んでしまい、仕事のストレス解消のためにplayしていた乙女ゲーム『5人の王子と謎めいた王宮』の世界に転生してしまった、というわけなのである。
好きだったゲームに転生できて、しかも公爵令嬢で王太子の婚約者?良いじゃない!って思ったそこのアナタ!
まぁーったく良くないのよ!
だって私は婚約者候補の中から王太子の婚約者に選ばれた後に、婚約者第二候補だったご令嬢と王太子の仲を疑い憤慨し嫉妬によりそのご令嬢に悪事を働いたため国外追放され、追放先で野盗に襲われ命を落としてしまうアリシア・フォン・ガーラント公爵令嬢に転生してしまったのですもの!!
ぜぇ、ぜぇ...、あぁ、興奮しすぎて息が乱れてしまいましたわ。ごめんあそばせ。
すでに5人の婚約者候補の中から王太子の婚約者と私は認められてしまった。
あらゆる手を使って他のご令嬢より劣るように見せかけて頑張ったのに、王太子に選ばれたレオンハルト様は何故か私を婚約者に指名したらしい。
つまり!第二候補のご令嬢がレオンハルト様と親密になるまでに!私が国外追放される2年後までに!
私はレオンハルト様から婚約破棄をしてもらい、バッドエンドを回避しなくてはならないのだ。