第122話 ≪エルケ
王族達がパーティー会場から消えると、再び貴族達が自由に語らいを始め出した。
「いつ見ても麗しい。シルク糸のような銀の髪に目を奪われますわね。」
「アルフォンス殿下もエアハルト殿下もご立派にご成長されて喜ばしいことですな。」
「王女様達のドレスをご覧になって?王妃様のご実家から送られた最先端のデザインなのでしょうか。とても華やかだったわ。」
「はぁぁ。本当に。皆様とても素敵でため息が...。」
その内容はもっぱら先程までこの場にいた国王達についての話だったが。
ガーラント公爵が、わたし達にすぐに庭園に出るように指示をだす。わたしが足元に力が入らないアリシア嬢の肩を抱き、テオドールが彼女の手を取りながら階段を降り、庭園へと出て後ろを振り返ると、ガーラント公爵はあっという間に噂好きの貴族達に囲まれ、矢継ぎ早に質問を受けていた。公爵はきっと謁見のあとにはこうなるだろうと予想してアリシア嬢を庭園へとすぐさま避難させたのだろう。
にこやかに外用の穏やかな笑顔をはりつけた公爵が、庭園から距離をとろうと、『響海の間』の奥へと貴族達を引き連れ移動したのを確認したあと、ガーラント公爵令息が、わたしにもたれかかり俯いていたアリシア嬢の両腕をとり、身を屈めて彼女の顔を覗き込んだ。
「アリィ。大丈夫か?」
光魔法に照らされた大きな石像の影にはわたし達3人しかいない。わたしに話す時とは打って変わり、優しく心配気なテオドールの声が小さく響く。
「...........。」
大丈夫かと言う問いかけに反応しないアリシア嬢にさらに心配度が増したのか、テオドールがわずかに眉を寄せた。
わたしも横から同じようにアリシア嬢の様子を伺う。
「お、」
「「お?」」
「お......、推しが.........」
先程の謁見前後のようにまたぷるぷると小刻みに体を振るわせるアリシア嬢。
「「オシ......?」」
?
オシとは何だろう?
「推しが、推しが......!!推しの幼少期がっ!!
とぉっ、とおっ、
尊すぎて死ぬーーーーーっ!!」
は?
パタリ。
わけのわからない言葉を吐いて、アリシア嬢がぱたりと後方に倒れた。
もちろんシスコンのテオドールがしっかりと腕に受け止めたが。
そして、同時に庭園の芝生に赤い鮮血が散らばる。
「アリシア!?アリシア!?血がっ!?」
吹き散りばるその血は、テオドールの白いタキシードをも赤く染め、彼は自身の手についたその血を茫然と見ながら悲壮な顔をした。
「ダメだ!死ぬな、アリシア!
僕を、僕をおいて逝かないでくれ!!」
アリシア嬢をぎゅうと抱きしめ、テオドールが悲痛な叫び声をあげる。
「......テオドール様。」
私は線になりそうな目で彼に告げた。
「死にませんよ。
それ、鼻血ですから。」