ハッピーハロウィン!③
④で終わる、はず...。
◇◇
空を見上げると明るい満月が僕を照らしていた。
眼鏡をはずし、自分の銀髪をなでつけると、いつもは隠している目元にひんやりとした風を感じた。
僕は視力が殆どないが、本当は眼鏡などかける必要はない。側近達以外の者には話していないが、自身の魔力で周囲の様子を察知することができるのだ。
なのに、なぜ僕がこんな瓶底のような眼鏡をかけ前髪で目元を隠しているのかは話すと長くなるので今は割愛したい。
黒のフードを目深にかぶり自室の窓の金枠に手をかける。
『浮遊魔法』
黒いローブを見に纏いふわりと浮いた体は闇に溶け、夜空に向かって飛んでいくと、誰にも気づかれずあっという間に城の尖塔までたどり着いた。
「さあ、行こうか」
僕の声に応えるかのように僕の銀髪が風になびき、パンっと薄いガラスが割れるような音をあげて髪が腰までの長さに一気に伸びた。
目を閉じて、ゆっくりとまた開くと僕の爪はまるで獣のそれのように尖り、色を漆黒へと変えていく。
「待っていて」
眼前に広がる夜の城下町の南方、白き公爵邸を見て僕はくすりと笑った。
◇
「ふふっ。楽しかったわね、エルケ」
「えぇ、わたくしあんな楽しいパーティーは初めてでした。お嬢様が使用人達も仮装して良いなんて仰るから、みな何日も前から準備をしこの日を待ちわびていたのですわ」
「時計ウサギの給仕達に、公爵邸の警備達はトランプ兵。みんな仮装の趣向が凝っていてすばらしかったわよ。望めるならば、金髪美形のテオ兄様にアリス役をやって欲しかったところだわ」
「そこはアリシアお嬢様がアリス役をやるべきなのでは...?
と言いますか、お嬢様が望むと妹至上主義のテオドール様が本気でスカート履きかねないので自重くださいませ」
公爵邸のサロンからアリシアと侍女の声がする。パーティーは盛況で終わったようで嬉しそうなアリシアの声と周囲で片付けをしている何人かの靴音がバルコニーにまで聞こえてきた。
アリシアはまだパーティーの興奮冷めやらないのだろう。少し浮き足立った声音がなんとも可愛らしい。
「では、お嬢様。サロンは片付いたので、わたくし共は広間の片付けを手伝ってまいります。お部屋に戻られますなら、このエルケが付き添わせていただきますが?」
「うーん、どうしようかな。この参加客リストを今日中にまとめてお父様に提出したいから、もうしばらくここで作業しようかしら。」
「では後ほどお迎えにあがりますね。扉の向こうに警備を......。あぁ、どうやらその必要はないようで」
ダークブラウンの髪を後頭部でひとつにまとめた侍女が僕が身を隠しているバルコニーをちらりと見た。
「エルケ?」
「いえ、なんでもございません。それでは後ほど」
僕の気配に気付くとは、相変わらず聡く侮れないアリシアの専属侍女だ。まぁ、それくらいでなくては王太子の婚約者の従者は務まらないだろうが。
パタンとサロンの扉が閉まる。
アリシアは眠そうな目を擦りながら、テーブルに置いた手元の参加者リストと招待状リストを照らし合わせていた。そんな作業など執事にでも頼めばよいものを自ら進んで作業するアリシアに僕は目を細めてしまう。
しばらくうつらうつらと眠気と戦っていたが、とうとう睡魔に負けてしまったのか、彼女はぱたりとテーブルに突っ伏してしまった。
その様子を見届けた後、僕は月明かりを背にいつもより青白く光る自身の手でバルコニーのガラス扉をそっと開いた。
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