第120話 ≪エルケ
レオンハルト第3王子....。わたしのような田舎育ちでも彼の噂は知っている。魔力に恵まれた王族の中でも、とりわけ生まれた時からすでに膨大な魔力を持ち、王妃のお腹から生まれ出た瞬間、王宮の部屋を魔法で雪まみれにしたとか、2歳ですでに浮遊術を使え、嫌いな食べ物があるとテーブルから遥か彼方にその食べ物を飛ばしていたとか。
この国は王になるには魔力を重視されるというから、おそらくこの第3王子は王太子になりうる最有力人物なのだろう。
「嬉しそうだな、レオンハルト。」
ヘスティア王妃が宙を舞う氷塊を見ながら自分まで嬉しそうにニヤニヤと笑う。
「アリシアに会いたがったのは、何を隠そうこのレオンハルトだ。」
それまでガーラント公爵と睨み合っていた、いや睨んでいたのは公爵のみで、国王はそんな公爵をニコニコと見ていただけだけど...、その国王がガーラント公爵から視線をはずし、第3王子を見ながら微笑を浮かべて言った。
その言葉になぜか目の前のアリシア嬢の肩がビクリとはねる。
「めったに自分の要望を言わない子でね。珍しく『この令嬢に会ってみたい』なんてキラキラした上目遣いで言われてしまったら、もうパパ頑張っちゃうよね。」
パパ??王様いまパパって言った!?
「自分の子の上目遣いが可愛いくて悶え死にそうになることには同意しますが。この世で1番可愛い上目遣いができるのは我が娘アリシアですよ?ツヴァイア。」
なぜ張り合う?公爵様そこでなぜ張り合う?
目の前で繰り広げられるただの親バカ合戦に目が線になってきた時国王がアリシア嬢にやわらかな微笑みで呼びかけてきた。
「......アリシアよ。」
「!!」
アリシア嬢の表情は後ろにいるわたしからは見えないが、話しかけられてきっと目を見開いているのだろう。はっと顔をあげたまま国王を見て固まる彼女の背中を見ながらそう思った。
「このようにそなたを待ち望んでいる王族もいるのだ。そなたの気持ちが少しでも王都に向くことがあればぜひここにおいで。」
国王はそう言うと、すっと片手をあげゆっくりと振り下ろす。その手の動きに連動するように何もなかった空間から水飛沫が上がり国王とその両側に座るシャナス様とヘスティア様を渦巻きながら包み込んでいく。
「わた、私、私は.......っ。」
アリシア嬢がカタカタと震えながら、水飛沫に包み込まれていく国王に向けて何かを言おうと前のめりになる。しかし、その体はアリシア嬢本人が思っていたよりも思うように動かず、彼女の体は前方へと倒れていった。
「お嬢様っ!」
思わず、礼の姿勢を崩し、倒れゆく彼女の腕に手を伸ばしたが、間に合わず私の指が虚しく空を掴む。
間に合わない。
バンッ!
「アリィっ!!!」
え?
けたたましく開かれた扉から、わたしの伸ばした手の横を、まさに光のような速さで金色の何かが、何者かがアリシア嬢めがけて駆け抜けた。
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