第118話 ≪エルケ
赤い髪の王族はこの国に2人しかいない。
1人は隣国からこの国の第二王妃となったヘスティア様。そして、ヘスティア様と現王の息子である第二王子エアハルト様だ。
だから、きっと玉座の右横にいらっしゃるのはヘスティア王妃。
ヘスティア王妃がシャナス王妃の気持ちを代弁したようだが、その言葉とは裏腹に、ヘスティア王妃は爛々とした瞳でいかにもこの状況を楽しんでいるかのように見える。
「ふむ。」
国王が微笑みながら、公爵を見ていた視線を左右へと動かす。
その瞬間、キンッ...と空気が何か異質なものに変わった。
......?
「シャナスやヘスティアが言うには、我らが周囲に迷惑かけているからやめろとのことだ。ふふふ。どうだ?ガーラント公爵、言いたいことがあるならあとで私の応接室で一戦するのも良いな。私に勝てばそなたの話を聞こうじゃないか。」
「ただ、執務の息抜きに遊びたいだけでしょう。あなたは。」
一戦、という言い方にわたしはびくりとしたが、ガーラント公爵の言葉から、どうやら剣や魔法での戦いではなく、チェスのようなボードゲームのことなのだろう。
「くはははは。言ってくれるな。周囲の者に聞こえたらどうする?」
「先程遮断魔法を使用しましたよね?なんなら幼いころからのあなたの悪ガキぶりをこの場で大声で叫んでもかまいませんよ?周りには聞こえませんからね。」
「それは困るな。たしかに他の貴族達から遮断したとはいえ、ここには我が息子娘達と未来の我が娘までいる。私の威厳が損なわれてしまえば、この国の大損失になるぞ?ははは!」
困るなといいながら、ガーラント公爵を見る国王の瞳は穏やかだ。まるでこの掛け合いを楽しんでいるかのようだ。
さっきヘスティア王妃が、国王とガーラント公爵は旧友と言ったが、きっと幼馴染のようなとても親しい仲なのだろう。
「ツヴァイア!まだ私の娘が未来のあなたの娘とは決まっていませんよ!?」
隣でカーテシーのまま固まっていたアリシア嬢の肩を抱き引き寄せて、ガーラント公爵はうなるように言った。
「ガーラント公爵、いや、ローレンよ。なぜ、自身の娘を王宮へ上げることに躊躇する?
アリシアが王太子妃候補に選ばれたその日、そなたはとても喜んでいたように見えたが。」
「それは、だから、言っているじゃないか。アリシアは体調を崩して領地で療養していると!今日だって本当はまだ王都には来させたくはなかった!」
そう、わたしがアリシア嬢のお世話をするようにとガーラント公爵家の説明を受けた時も、アリシア嬢が領地にいたのは療養という話だった。
だけど...。
「しかし、最近は伏せることもなく、領内を駆け回り元気で過ごしているとの話だが?」
「くっ......。それは。」
ガーラント公爵はぶるぶると悔しそうにこぶしを小刻みに震わせ、眉間に皺を寄せた。
「頃合いじゃないか?私は2年も待った。
他の候補者達はすでに王都に住まい王宮にて王太子妃教育を受けておる。
最終的に王太子妃となれぬ場合でも、最上の教育を受けた経験は必ずや彼女達の宝となろう。
何を躊躇することがある?」
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