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王子と私の婚約破棄戦争  作者: 翡翠 律
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しあわせパンプキン⭐︎ 中編


 背後から突き刺さるメイドからの冷たい視線を感じながら、私は先程から考えていたことをユリアンに話すことにした。


「ユリアン、お願いがありますぞ。」


「なりません。」


「なっ!?まだ何も言っては......」


 間髪入れずに返ってきた言葉にぎょっといていると、我が家老ユリアンが床にモップをかけながらニコニコと振り返った。


「ハロウィンパレードにお嬢様も参加したいとおっしゃるつもりでしたのでしょう?」


「ど、読心術......っ!?さすがじいやっ、我がロナポワレ家が誇る家老...!!」


「いえ、さっきからのお嬢様の行動と表情を見ていたら誰にでもわかりますよ。

 本日は私が護衛にあたることができないので、外出はお控えくださいませ。」


「じいやは忙しいのか?」


 たいていの用事は付いてきてくれるユリアンが付いて来れないと言い切ることは珍しい。


「明日の明朝、旦那様と奥様がお帰りになります。そして午後からは表通りからお客様がおこしになられるので、今から使用人ども全員で準備を行わなければならないのですよ。」


「表通りから...、そうか、それなら忙しいな。」


 ショボボンと肩を落とす私にユリアンは申し訳ありませんと謝った。


 『表通りの客』、とは子爵家としての付き合いの客ということだ。反対に『裏通りの客』はロナポワレ家が王室の命で行っているバランサーとしての仕事で隠密に付き合いがある客を指す。


 つまり『裏通りの客』については地下室や別邸、隠れ家的な人目につかない場所で話し合いや取り引きをするため、紅茶すら出す必要がないが、『表通りの客』についてはその逆で、子爵家が総力をあげて歓迎しなくてはならない。

 テーブルクロスやカーテンすべてに気を遣い、客に出す茶葉や菓子を用意し、食事のメニューを決め、庭の整備に警備の強化、はたまた話題になるだろう話についての資料収集、etc.etc....。

 とにかく大変なのである。


「わかった部屋にいよう。」


 肩を落としながら自室へと戻る私に、掃除をしているユリアンの代わりにメイドが付き添う。


「本当に申し訳ありません。お嬢様。

 本日のスイーツタイムの菓子をハロウィン仕様のクッキーやケーキにするようパティシエに申しておきますので、ささやかですがハロウィンをお楽しみくださいませ。」


 礼儀正しく綺麗な礼をして私を見送るユリアンに、あ、じゃあ...と私は振り返る。


「ユリアン、それならば、いつもより多めに菓子を食べたいですぞ。今日はハロウィンなのだから良いであろう?」


「もちろんです。ベアトリクスお嬢様。沢山作るよう申し伝えておきますね。」


 ニコニコと微笑むじいやに、私も満面の笑みを見せ自室へと戻って行ったのだった。


 ぐふ。ぐふ。ぐふふふふふふ。




◇◇


 トントン。

 部屋の扉がノックされ、入りなさいと指示をだすと、メイドがワゴンにティーセットと沢山の菓子を乗せて入室してきた。

 そして、私の目の前のテーブルに紅茶と菓子をのせていく。



「ほう?オバケ型クッキーにココアの猫クッキー。カボチャ色マカロン、そしてコウモリ型のチョコレートですな。美味しそうでありますぞ。」


 つい綻ぶ口元をおさえ、サクリとクッキーを食べてみる。うん、これは素晴らしいできである。


「お口にあったようですね。良かったです。」


 無表情なメイドはそう言うと、壁側に控えようと移動した。


「ああ、本当に美味しいとパティシエに伝えておくれでございますぞ。

 こんなに美味しいお菓子は時間をかけてゆっくり落ち着いて味わって食べたいですな。だからきっと食すのに時間がかかるでありますぞ。そなたも明日の準備で忙しいだろうし、ここはもう良いから、明日の準備に行っておくれ。ぐふふっ...、おっと、いけない。」


 そう言ったが、メイドは無言でどうしようかと眉を寄せ、やはり壁側に控えようとした。


「1人で味わいたいと申しておるのだ。扉外に警備の者もいるし、そなたは明日父上たちが帰ってきたときのために準備を頑張ってくるのであります!ほらほらっ!」


 半ば無理矢理にメイドの背中を押して自室から追い出し、再びテーブルへと戻る。

 紅茶を飲み、クッキーを食しているとノック音がしてガチャリと扉があいた。


「お嬢様。お一人でスイーツタイムを過ごしたいとのことですが...」


「なんだ?ユリアン。私は大人しく菓子を食べているぞ。」


 おそらく先程のメイドがユリアンに報告したのだろう。私が外に出ようとしていないか確認にきたのだ。

 しかし、私はちゃんと大人しく菓子を食べて過ごしているぞ。どうだ!


「......さようでございますか。お部屋にきちんといらっしゃるなら安心です。では、私めはまた旦那様とお客様の準備に行かせていただきますね。」


 パタンと扉が閉まる。

 ユリアンの足音が遠かったのを確認した私は口元がぐふぐふと緩み出した。



「ぐふ、ぐふふふ。

 我が家老ユリアンよ。私は、部屋にいようとは言ったが、いつまで(・・・・)部屋にいるのかは明言していないでありますぞ。」

 



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