しあわせパンプキン☆ 前編
総合ポイント2000P記念の番外編です。
「うぬぬ。楽しそうでありますな。」
そおっと屋敷の最上階の窓から街を覗くと、屋敷の門前を黒猫やオバケの格好をした幼い子供達が沢山のお菓子が入ったカゴを持ちながら嬉しそうな顔で歩いているのが見えた。
「ハッピーハロウィン♪トリックオアトリート♪」
子供達が歌を歌うと、周囲の家の玄関ドアが開き、その家の使用人頭であると思われる女性やメイド達が、美味しそうなクッキーやキャンディをニコニコしながら子供達に手渡していく。
「おおお。なんと優しき世界でありますかなっ。」
ヨダレをたらさんばかりに窓から目だけ出してその様を眺めていると、ふと上を見上げた小さな男の子と目があった。
「...........。」
「...........。」
お互いに思ってもみなかったことにしばらく固まっていたが、そこは年の功、私のほうが一足先に正気に戻り幼いその男の子にニコリと微笑みかけた。
私の笑顔を見た男の子はさぞや可愛い笑顔で手でも振ってくれるだろ...
「ひっ!?ぎゃああああああ!オバケー!!!」
う?
「なっ!?なぜに!?なぜ逃げるのでありますぞ!?ああああ...行ってしまった!!」
彼自身こそオバケの白い衣装を着ているというのに、なぜか私をオバケ呼ばわりして脱兎の如く去ってしまった。しかも男の子の叫び声を聞いた周りの子供達も「えっ?えっ?オバケ?きゃああああ!?」とパニックになりまくり、子供達のハロウィンパレードを誘導していた大人たちが慌てたように、子供達を違う通りへと追いやってしまった。
残されたのは屋敷の前の通りに飾られたパンプキンの飾り達と屋敷の窓から這い出るように手を伸ばした私の手。
「解せぬでありますぞ!?私はオバケの仮装などしておらぬでございますぞ!?」
理解できず頭を抱えていると、ガチャリと部屋の扉が開く。
「おや、ベアトリクスお嬢様。こんな場所で何をなさっていらっしゃったのですか?」
振り返ると手にモップと埃叩きを持った我がロナポワレ家の執事ユリアンが、微笑みながら扉から入ってきた。
この部屋は父上の大事なコレクション部屋なので、執事長であるユリアンが自ら毎日掃除をしているのだ。
「ユリアン。なぜかハロウィンパレードの子供達が私を見て逃げてしまったのだ。」
困ったように眉を下げると、そんな私を見たユリアンはぐるりと部屋を見渡し、次に私が身を乗り出していた窓から外を覗いてさらに左右をも確認したあと、満面の笑みを浮かべた。
「ふむ。場所は逆光で暗く沈み蔦が這うロナポワレ子爵邸の普段は使われない最上階の旦那様のコレクタールーム。
壁には旦那様が仕事のついでに各地であつめたわけのわからない......いえ、とても芸術的な民族の仮面や泥を塗ったような......いえ、とても前衛的な絵画の数々。そしてその部屋の窓に浮かび上がる二つの目に、這い出てくるお嬢様の白い手。
ベアトリクスお嬢様。計算ではないとはいえ、素晴らしいハロウィンの演出でございますな。さすがロナポワレ家の家宝であるお嬢様でございます。あっぱれでございます。」
「そ、そうか?
う、うむ。そう言われればそうかもしれぬな。私が無意識にすごい演出をしたものだから、子供たちがあまりのすごさにきっと本物のオバケと勘違いしてしまったのでありますな。
うむ。今日はハロウィンだからこれで良かったのだな。うむ。」
何かわからないが、ユリアンがそう言うならこれで良かったのだろう。ショボンと落ち込んでいた気持ちが一気に上向きに戻る。
「単純......。」
ユリアンの後ろで掃除用具を持ってきたメイドが線ような細い目をして何か呟いたようだが、気のせいだろう。
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