ハッピーハロウィン!②
②で完結するはずが終わらなかったです...。
「レオンハルト様、宮廷魔術士達が慌てて城にいる者達に防寒魔法をかけてくれたからよかったものの。あわや私まで氷の彫像になってしまうところでしたよ」
目の前の書類に目を通しながら、ふぅとため息をついたラフィに温風魔法をかけて髪や服を乾かしてやる。
アリシアは城門の氷が溶け次第公爵邸に帰って行き、いま僕とラフィは執務室で王太子になってからというもの父上からどんどん送り込まれてくる外交関係の書類をさばいていた。
「城の外壁掃除担当には感謝されたぞ。僕が魔法で解凍した際に普段は届かない箇所も汚れが落ちて綺麗になったそうだ」
「自慢げに言わないでください。騎士団の馬達は氷ついた地面に滑って尻餅を突き、文官達の書類は凍ってしまい持った途端に粉々に砕け散って大変だったのですから。
......ところで先程から熱心に何を読んでいらっしゃるのですか?」
茶を持ってきた女官が入室の合図をすると、ラフィは一瞬にしてげんなりした表情をいつもの穏やかな天使の顔に作り変え、僕の手元を見て不思議そうな顔をした。
「あぁ。これか?アリシアがくれた『はろうぃんパーティー』の要項だよ。」
「レオンハルト様」
ラフィがにっこりと天使の微笑みをする。
「ガーラント公爵邸のパーティーの日は、終日公務が入っているとお伝えしましたよね?」
「............。」
へたに睨まれるより天使の微笑の攻めの方が圧がすごいということはラフィを側近登用して知ったことだ。思ったことを口に出さずに相手を思い通りに動かすことのできる彼の能力は側近として本当に有能である。しかし、アリシアに関しては僕はラフィの思い通りになるつもりは全くない。
「......終日と言っても夕食後まで働かせるつもりはないのだろう?」
「アリシア様が計画していらっしゃるハロウィンと言うパーティーは夕方には閉会していますよ?
公務で殿下が赴くことはできませんが、婚約者という体面上、招待状は一応いただいていますから時刻は把握しております。」
「あぁ、そうだった。公爵邸に行くには招待状がいる。忘れるところだったよ。」
「レオンハルト様、わざと聞いていらっしゃいませんね?
招待状があろうとなかろうと夜半前に婚約者とは言え未婚の淑女に会いに行くなどマナー違反にもほどがありますよ」
にっこりと笑うラフィの背後のオーラになにやら不穏なものを感じたので、僕は眼鏡を外し彼の笑顔とオーラを見えなくした。
アリシアが一生懸命計画しているパーティーに婚約者である自分だけが参加しないのはいかがなものか。
いや、そんなことよりも僕は......。
「とにかく、一国の王子が夜遅くに公爵家におしかけるなど、そんなマナー違反なことをしたら他国にまで噂が及びますよ。
どうか、その日は公務も詰まっていますし夜はゆっくり王城で休まれてください。」
「一国の王子でなければ良いのだろう?」
「は?」
「公爵邸にはレオンハルト殿下ではないものが行く。王子ではない者が行けば良いのならそうしようじゃないか」
「レオンハルト様、何を仰って...」
「ラフィ、このアリシアが作った要項を見てごらん。
なかなか面白いパーティーだよ?まるで仮面舞踏会のような趣向だ。菓子も配るらしいな。アリシアの手作りお菓子も楽しみだ」
「アリシア様のお菓子なら先程いただいていたではありませんか」
「あれは保存用だ。腐敗防止の魔法もすでにかけてある」
僕は眼鏡をかけ直すと執務机の引き出しをあけた。その中では丁寧に一つずつラッピングされたクッキー達が金色の魔法の光を放っている。
「...戦禍で四肢に重傷を負った際の壊死防止のために研究された高度魔法を菓子にかけるのはおやめください。
それに閉会後に訪れたのでは、すでに菓子もなくなっているのでは?
......あぁ、これって。...ふう、そうですか。わかりました。ただし24時までには帰ってきてくださいよ」
アリシアの持ってきた『はろうぃんパーティー』の要項に目を通していたラフィは、僕の意図を読んだのか、仕方ないという顔で外出の許可を出した。
「ありがとう。ラフィ。」と礼を言うと僕は前髪をかき上げ、窓の外に姿を現した少し欠けた月を見た。
「ふふふ。そうだね。菓子はもうないかもしれないね」
ーーー楽しみにしているよ。アリシア。
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