第115話 ≪エルケ
お久しぶりです。翡翠です。お待たせしました!やっと王宮までたどり着いたー!もうすぐ幼き日のあの方達がようやく登場かな。彼らを書くのが楽しみです☆
◇
「これは、これは!お久しゅうございますな。」
「母上、友に挨拶をしてきてもよろしいですか?」
「まあ!なんて可愛らしい髪飾り!どちらでおもとめになられたの?」
門から王宮の廊下にかけて響き渡っていた厳かなメロディから一転、パーティーのメイン会場となっている『響海の間』の見上げるほど高さのある両扉を華やかな装具を身に付けた兵士が開けると、軽快な音楽が流れてきた。
そして、思い思い楽しげに話す煌びやかな貴族達。
『響海の間』は広大な中庭に面しており、数段ある石段を軽やかな足取りで若い貴族の娘達が庭のほうへと降りていく。噴水の周りには様々な楽器を手にした演奏家や、アイアンテーブルで飲み物や軽食を振る舞う王宮使用人達がいて、若い貴族達のリクエストに応えているようだ。
反して『響海の間』では、恰幅の良い紳士や扇で口元を隠した貴婦人達がソファーや壁近くに座ったり立ったりして談笑している。
王都に近いガーラント公爵領で育ったとはいえ、自分は公爵の援助がなければやっていけないほど落ちぶれていた田舎男爵の出だ。こんな煌びやかな世界を見るのは初めてだった。公爵家のタウンハウスも白く美しい邸宅で広かったが、王宮は桁違いだ。王都にいた街娘達も美しく華やかであったが、ここにいる貴族の娘達はまるで童話から出てきたお姫様のように豪奢で優雅だった。
「くらくらする...。」
壁も床も最上のものなのだろう。ピカピカに磨き上げられ、金の額縁で囲まれた歴史のありそうな絵画に、天井にはガラス1つ1つに細かい細工のされた巨大なシャンデリアが何個も吊るされて、光魔法によってキラキラと輝いている。
あまりのキラキラ具合に「うっ。」と目元を手で覆うが、手を当てた瞬間そういえばうちのお嬢様の機嫌は戻ったのだろうかとふと思い、自分の斜め前をゆっくりと歩いて『響海の間』に入っていくアリシア嬢をちらりと見た。
アリシア嬢が歩くたびにふわりと小さな輝きを放ちながら、美しい海の色を纏ったドレスの裾が舞った。
「なんて可愛らしい。」
「美しいドレスですな。よくお似合いだ。」
「あの色を纏うということは、ガーラント家も参戦ということか。」
「体調はもうよろしいのでしょうかね。」
「公爵様はご一緒ではない?」
「あの方がアリシア様?肌がお綺麗ね。お母様。」
アリシア嬢が『響海の間』に足を踏み入れたその時から周りがザワザワと、その小さな公爵令嬢に釘付けになっていた。アリシア嬢はいまだに拗ねているのか顔は俯いたまま、しかし背筋だけはしゃんと伸ばし、敷かれた赤い絨毯の上を歩いていく。
その後ろからわたしも付き添っていく。本来ならば、ガーラント公爵か兄のテオドールが付き添うものなのだが、ガーラント公爵とテオドールはこの宮殿にかかっている光魔法の結界や警備の管理などで会場にはいるのが遅れるらしい。
『代わりにおまえがアリィに付き添え、僕は僕がいなくとも結界が揺らがないよう光魔術師どもの力を無理矢理引き出させてから駆け付ける』と薄暗い目でテオドールが言っていたが、今頃、テオドールの都合のために宮廷魔術師達は魔力を搾り取られているのだろう。
(でも、わたしが付き添わなくてもアリシア嬢はぜんぜん大丈、夫......)
...........,?
『響海の間』の中央まで来た時、わたしはとんでもない思い違いをしていることに気づいたのだ。
そう、気づいた。
ようやく。
侍女なんて、こんな仕事なんて、わたしには簡単にできるとたかを括っていた自分の愚かさにようやく気づく。
ふわりとドレスともに庭からの風になびいたアリシア嬢の煌めく金の髪。その髪が隠していた彼女の白い肌は白を通り越して、真っ青だった。
遠目にはわからないほどだが、ぶるぶると小刻みに震える両肩と腕。足取りは一見ゆったりと優雅に見えるが、あれは違う。あれは優雅に歩こうとしているのではなく......強い拒絶によって...歩けない?
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