第113話 ≪エルケ
「アリィにこれを。」
「えっ?こんな綺麗なものをもらっていいの?」
「1年前のお礼。もう会えないかと思ってた。」
「お礼って...。そんな大したことしてないよ、私。もしかして、私に会えるまでこれをずっと持ち歩いててくれたの?」
「え!?えーと、えっと。......うん。」
「......ありがとう。じゃあ、いただくわ。」
「う、うん!」
「綺麗な青い石。」
「前にとなりの国の商人がうちに持ってきたんだ。
あ、父さんにもアリィにお礼に持って行きたいって話したから大丈夫。
アリィは本が好きなんだろ?それはブックマーカーなんだ。」
「そうなんだ?ありがとう、リオ。」
うーん。
アリシア嬢は見つけたけれども、あの焦茶色の髪をした少年はいったい誰なのだろうか。
風魔法は使えないから、声が小さくて何を話しているかさえこんな本棚2つほど離れた場所からは耳をすましても聞こえない。
どうやらアリシア嬢の知り合いらしく、彼女になにか小さな紙袋を渡しているけど、それが何かすらわからなかった。
ちらっと周りを見渡すと店内はわりと客がいて、特にこちらを見てる客は居なさそうだが、おそらくあの中にテオドールがつけているアリシア嬢の護衛が紛れ込んでいるのだろう。
その護衛が黙認しているということは危険な人物ではなく、渡されたものもアリシア嬢に害を与えるものではないということか。
しかし、あの少年は一体誰なんだろう?
いまアリシア嬢は平民が着るようなシンプルなワンピースを着てカツラをかぶっているから、彼はアリシア嬢が公爵令嬢とはわかっていないのかも。
どこにでもいそうな焦茶色の髪、瞳はアリシア嬢の瞳に似た...でも少し濃いエメラルド色。身なりはそれなりに良い服装をしているから、あの少年は平民のなかでも裕福な商家の子とかだろうか?
この店が貴族が経営する店だと先輩侍女から聞いた時、テオドールが言う『決して関わるな』という人物はフリックル男爵のことかと思ったが、もしかしたら、そうじゃなくて、あの少年?
『!?」
ちり、と誰かの魔力混じりの視線がわたしの魔力に干渉した。
はっ、と横を振り向くと知らない婦人がわたしの横を通り過ぎていく。
なるほど。これ以上踏み込むなということね。
「まぁ、あの少年が誰でもわたしには関係ないわ。
さ、お仕事。お仕事。」
少年がアリシア嬢から離れていったあと、ささっとアリシア嬢に近づき問答無用で腕を引っ張り馬車へと彼女を放り込んだ。
「さ、回収完了!」
公爵家のお忍び用馬車がガタゴトと走り出す。
迎えにきたならもう少し優しく扱ってとなにやらアリシア嬢が横で喚いていたけど。気にしない。気にしない。
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