ハッピー ハロウィン!①
ハッピーハロウィンということで、本編から離れてハロウィンのお話です。場所は王宮庭のいつもの2人だけのお茶会から始まります。
「アリシア、カボチャ型のクッキーに個性的な顔が書かれているのだが...?」
いつもなら彼女が僕との茶会時に菓子を差し入れしてくれても、僕は彼女と目を合わすこともなく書物を読みながら彼女と会話し、彼女が帰った後に自室で持ってきた菓子を食べていた。
しかし、この日彼女が手ずから作って城に持ってきた菓子はなんとも奇妙な形の菓子ばかりで、思わず書物から目を離し、彼女のエメラルドのような緑の瞳を直視してしまった。
「ええ、レオンハルト様。その菓子は10月31日のハロウィンの日に配るお菓子なのです。レオンハルト様はその日公務があって会えないとお聞きしましたので、前もって同じお菓子をお持ちしました。実は公爵邸で......って、レオンハルト様、聞いていらっしゃいますか?」
「......失敗した」
「え?失敗?クッキーがですか?焦げたりもしていないし、砂糖と塩を間違えたりもしていないはずですが...?」
頭にクエスチョンマークが見えるほど首を傾げ、持ってきたクッキーを口に入れて確かめるアリシアを見て、僕は慌てて目の前の書物の山にさらに本を積んでアリシアを視界から排除した。
失敗とは、僕がさっき彼女を直視してしまったことだ。
え、どこから本を持ってきたのかって?
そんなもの王宮の図書館に決まっているだろう。
僕はこの国1番の魔術の使い手の第三王子レオンハルト・シーガーディアンだ。
この茶会の王城庭から城内とはいえ遠く離れた王宮図書館からでも魔法で目的の本を持ってくることなど造作もないことである。
「うわぁ。レオンハルト様はほんとに読書がお好きですね」
空を飛んでくる書物の群れにアリシアが感嘆の声をもらす。
「それで、ハロウィンというのはですね」
奇妙な菓子を持ってきた僕の婚約者であるアリシア・フォン・ガーラントは、全部の書物がラウンドテーブルに着地したのを見届けると黄金の稲穂のように輝く長い睫毛に縁取られたエメラルドのような瞳をキラキラと輝かせ、『はろうぃん』という異国の季節行事を説明しだした。
僕は彼女を直視しないよう書物に目を向けながら、先程から疑問に思っていたことを口に出す。
「はろうぃんか。なんとも楽しそうな行事だが、僕はいろんな国の文献を読んでいるけど、そんな風習のある国は聞いたことがないな。アリシアはどこでその行事を知ったのかい?」
僕の質問にアリシアはハッとして動きを止めた。
「え。この世界の設定ではハロウィンはないの?クリスマスイベは確かあったからハロウィンもあるんじゃないかって思ったんだけど...。あぁ、でもクリスマス前に始まったから10月のイベントってまだ経験していないんだっけ...?」
なにやらボソボソと自問自答しているが声が小さくてよく聞き取れない。頷いたり、真っ青になったりしているアリシアの言葉をところどころ拾うと「クリスマス」やら「経験」という言葉が聞こえてきた。
僕とアリシアは春に正式に婚約が決まったのでクリスマスはまだ一緒に過ごしたことはないはずだが。
「アリシア、まさか僕以外の人物とクリスマスやはろうぃんを今まで経験していたってことじゃないだろうね?」
「ハロウィンを(公爵邸で)するのは初めてですが、クリスマスは毎年(家族と)一緒にすごしていますよ?」
「ほほぅ......?(僕の知らない人物と)一緒に?」
「はい、(家族と)一緒に」
「そうかい。ふふふ」
「......?おほほほほ?」
誰も近寄るなと言ってるはずの中庭に多数の慌てたかのような足音が近寄ってきた。
「レオンハルト様ー!!城を氷漬けにするのはおやめくださいっ!!」
庭園の入り口を見ると、ゼエゼエと肩を揺らして息をする側近のラフィがいつもは穏やかな顔に珍しく焦った表情を浮かべ顔を引きつらせながら立っていた。
その後ろには使用人頭や文官長に騎士団長。
「「「今すぐ元に戻してくださいっ」」」
どうやら気付かないうちに魔法を発動し、アリシア以外の全てのものが氷漬けになっていたようだ。
まぁ、アリシアが無事なら僕はどうでもいいのだけど。
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