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王子と私の婚約破棄戦争  作者: 翡翠 律
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第101話



 ああ、もう、この2人ったら。


「テオ兄様。」


 私は、見つめ合う(睨み合う)テオ兄様とエルケの間に入り手で制した。


「主従仲が良いのはとても良いことですが、お客様がいらっしゃるので2人だけで会話をするのはダメですわ。」


「ええっとでありますな。今のやりとりのどのあたりが仲が良いのでありますかな?」


 私の言葉になぜかビーア様がお顔をひきつらせている。



「テオ、主従仲良い悪いはともかく、まずは叔父上に状況報告が先ではないのか?」


 ハインツ従兄様がソファーに座ったまま、にこやかに話しかけてきた。


「おまえがここに帰ってきたということは、アリィの周りの状況が良くなってきたということだろう?」


 その言葉にテオ兄様はかすかに眉を寄せてしばらく黙ってから、目を一度閉じ、再び目を開くとハインツ兄様をまっすぐに見据えた。


「父上にはさっきすでに報告しに行った。

 アリィの部屋に行こうと3階の廊下を歩いていたら客間からアリィの泣く声が聞こえたから急いでここまで来たんだ。」


「ええっとでありますな。どうやったら3階にいて1階客間の声が聞こえるでありますかな?」


 頭を抱えながらビーア様が質問する。


「それはテオだから」

「それはテオ兄様がお兄様だから」


 ハインツ従兄様と私の声がハモる。


「そ、そうなのか。わ、わかったでありますぞ。いや、よくわからぬが、これ以上深く掘り下げないほうが良いことは、よ、よくわかったでありますぞ。」


 ビーア様がさらに引き攣りながら後ずさる。

 あれ?どうしたのかしら、ビーア様。普通妹が困っていると兄がどこからでも駆けつけてくれるのは一般常識よね?それが例え隣町にいてもテオ兄様のように駆けつけてくれるし、声も察知できるものなのよね?あれ?間違っている?と目を瞬かせていると、私の腕を誰かに急に引っ張られた。


「アリィ!!」


 目の前には心配そうなエメラルド色の瞳。


「テオ兄様?」


 ふわりと抱きしめられる。


「不安だっただろう?もう大丈夫だ。

 全て元通りになる。

 もうこれからは、この屋敷から外出することもできるし、しばらくすれば王宮に行くこともできる。」


「王宮にも?」


「ああ。」


「それはレオンハルト様との.....。」


「ああ、茶会もまた招待がくるだろう。王太子妃教育も王宮内で受けることになる。」


「テオ兄様。今回のことは私が王宮で......」

「アリシアお嬢様。」


 私が王宮で魔力暴走しかけたことが全ての原因ですか?と質問しようとした時、エルケが話に割って入ってきた。


「お客様にお茶とお菓子をご用意させていただきたいので、一度ご着席くださいませ。」


「え。」


 エルケの言葉にはっと周りを見渡せば、シャル様とビーア様がソファーから立ち上がったまま私とテオ兄様を見つめていた。


 そうだった。せっかくレナーテ様が私をかばって謹慎をされているのに、今ここであの日あったことをバラしてどうするのだろう。シャル様やビーア様のことは信用しているけど、今この場所には使用人達も数人控えている。ガーラント家の使用人も信用しているが、レナーテ様が身を犠牲にして隠してくださったことを、助けていただいた私自身がベラベラと周りに喋るのはいけない気がする。


「あ、うん、そうね。

 エルケ、お茶の用意をお願いするわ。

 それからテオ兄様、おかえりなさい。

 テオ兄様にこんなに長く会えなかったことは初めてだったから、やっと会えて嬉しいですわ。」


 うん。いつも一緒にいたテオ兄様がやっとガーラント家に帰ってきてくれてホッとした。

 にこりと笑うとテオ兄様は逆に切なそうな表情で私の頭にポンと片手を置き私の髪を撫でた。


「もう二度とアリシアの側を離れないからね。」


「うーん、それはまるで恋人に言うセリフです、テオ兄様。相変わらず表現が大げさすぎですわ。」


 ふふふと冗談話っぽく笑いながらテオ兄様を見上げる。テオ兄様もきっと笑っていると思ったのに、しかし彼はまったく笑っていなかった。

 彼の瞳は暗く沈み、私を見ているのにまるで遠くを見ているような。そんな苦しげな視線。


「二度と辛い思いはさせないから。◯◯。


「え?今何て......?」


 テオ兄様の呟いた言葉が聞き取れず聞き返す。

 すると、彼はふっと笑い私の肩に手を回してソファーへと誘導した。

 さっきまでの暗い表情が嘘のようにいつもの優しく穏やかなテオ兄様の表情に戻っている。


「なんでもないよ。さあ、せっかく僕も帰ってきたのだしアリィ達とお茶がしたいな。エルケ用意してくれるかい?」


「はい。テオドール様。

 最近は王都の若者に辛子味や塩味の紅茶が流行っているそうなんですが。いかがですか?」


「遠慮しておくよ。普通に淹れてくれ。」


「あら、残念でございます。」


 テオ兄様とエルケがいつものようにたわいない会話を繰り広げる中、エルケの指示により使用人たちが茶器とお菓子の用意をローテーブルに並べてくれる。


 ーーテオ兄様?


 さっきの苦しそうな表情はなんだったのだろう?



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