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王子と私の婚約破棄戦争  作者: 翡翠 律
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第98話 ≪ベアトリクス


「よ、ようこそお越しくださいました。フラナン伯爵令嬢シャルロッテ様、ロナポワレ子爵令嬢ベアトリクス様。

 本来ならアリシア様自らお出迎えさせていただくところ、アリシア様が自室から出ることが叶わず、私どもが代理となり誠に申し訳ございません。」


 10歩ほど引いていた執事の中で執事長と名乗る者が8歩ほどこちらへと戻ってきて我らに挨拶をしてきた。

 彼の後ろでは「さすが執事長!」「恐れに立ち向かう御姿は立派ですぅ!」「ううっ。屍はひろいます。あなたの勇気に乾杯!」などよくわからない声援が起こっている。うーん。シャル殿のスマートな所作にあまりに興奮しすぎたでありますな。大丈夫ですぞ。近づいても噛みつきは致しませんぞ。しかし基本人間が苦手であるからその距離はこちらも助かりますぞ。


「かまわないですよ。

 むしろ、アリシア様の体調が回復したばかりのときにこうやって面会をしていただけるだけでも光栄です。」


 バタン!ガタン!ガコン!


 おおう。にっこりと笑うシャル殿を直視した女性の使用人達が数人倒れたようでありますな。


「そうですな。やっと会えるだけでも我らは嬉しく思いますぞ。

 しかしですな。馬車から降りるにはちと邸までの距離が遠くはありませぬかな?ひっ!?ほ、ほら、いらぬギャラリーがああああ!!」


 本来なら貴族の邸を訪問すれば門をくぐり庭を通って邸のエントランスまで馬車を乗り入れるものだが、なぜだか門を通る前にガーラント家の執事や使用人達が迎えに並んでいたためユリアンに馬車を降ろされたようだ。

 そのため、貴族街を行き交う人々、馬車で通り過ぎる人々皆が、高位貴族であるガーラント家の前で何か集まっているぞと興味津々に視線を送ってくる。

 さすがに街の人々も貴族だけあって凝視はしないがちらちらと送ってくる視線に.....


「ビーア殿、大丈夫か?」


 両脇からはっし!と青ざめて倒れゆく我が身体を受け止めるシャル殿とユリアン。


「執事長殿。お嬢様が限界そうなので、そろそろ。」


「こ、これは失礼致しました。

 ではこちらの3輪馬車に乗り換えてください。

 冬の咲く珍しい花々とクリスタルの飾りを散りばめたこの季節限定の庭園を眺めながらエントランスまで来ていただきたいとの主人からの伝言がございます。」


「それはなかなかの趣向だが......。」


 本来はそういう意味で馬車を降ろさせたのではないだろう?とシャル殿が目の前の光の結界に包まれたガーラント公爵邸を見上げた。


「“そういうことです″ので。」


 そういうこと、と誤魔化されたのはこれ以上、結界の件については触れるな、ということなのであろう。

 結界を張って必要以上の人間や物を入れたがらない、つまり彼ら、ガーラント家の者達は公爵邸の中に何かが入り込むのを恐れているようである。


「.....了解した。ビーア殿、行きましょう。」


「...はい、でありますぞ。」


 ここで説明を求めて、せっかく取り付けた訪問の許可を公爵に取り消され、アリィ殿に会えなくなってしまっては困る。

 アリィ殿が王宮に倒れられたと聞いて、シャル殿とともに何度も体調を気遣う手紙を送ったり、見舞い品を送ったが全てアリィ殿に届く前に今は受け取れない、申し訳ないと門兵によって突き返されたのだ。


 シャル殿が三輪馬車に乗る前に執事長を振り返る。


「面会が叶うということはアリシア様はお元気になられたのですよね?」


「はい、非常に元気すぎ、いえとても元気であります。」


 執事長がにこりと微笑んだ。

 じゃあ、なぜ結界が?アリィ殿の体調と結界は無関係ということか?と疑問に思いながらシャル殿について行こうとした時、我らをあからさまにじっと見つめる視線に気づいた。

 

 凝視するマナー違反な者など珍しく、恐々振り返ると、少し遠くに白い外套を着た淡い金色の前髪の長めな青年と、性別はよくわからないがグレーのフードを深くかぶった小柄な人物がこちらを見ていた。


 「................。」


 淡い金髪の青年が何やらつぶやいたが、距離がありすぎて私には聞き取れない。

 しかし、なぜかその青年の顔に見覚えがあるような気がして気になった。

 どこかで会った?貴族街ですれ違った?いやそんな感じでもない。どこだ?平民の娘のふりをして平民街にいる時か?いや、それも違う気がする。王宮のパーティーはあまり顔を出さないから会っていたら覚えていそうだが。なんだ。何かが違う。違和感が。どこで会った?

 何かがひっかかるような違和感が湧き上がってくる。



「あの青年達は何者でしょうか。」


 私の隣に来たシャル殿が少し眉を寄せて言う。


「シャル殿?」


「ああ、あの青年が言った言葉がさっき聞こえたので。

 私は風使いの家系に生まれた者なので、風を通して遠くの話し声を聞くことができるのですよ。」


「そう言えばフラナン家は風魔法が得意でしたな。

 それで?あの人物は先程なんと呟いていたのですかな?」


 シャル殿が眉をさらに寄せて首を傾げた。


「彼らはアリィ殿の知り合いなのでしょうか?

 彼は私たちの話を聞いたからか、『よかった...。』と呟いたのです。」


「よかった、と?」


 シャル殿の話を聞き、もう一度彼らがいた場所を振り返った。

 しかし、その場所には、すでに誰もいなかった。




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