第96話 ≪リオ
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「...忙しいはずのあんたが家を抜け出して学校に来たと思ったら、こういうことか。」
そう言ってフェルがジト目で俺を見てくる。
「なんだよ、その目は?べつに着いてこなくてもいいんだぞ?」
「...行く。一応あんたの護衛役だから。」
はぁ、と深いため息をつきながら歩くフェルを引き連れ、俺は文教区から平民街に行く方向とは逆のほうへと歩き出した。
しばらく歩くと街の建物の雰囲気が変わり豪奢な飾りのついた邸宅や華やかな装飾の馬車が行き交いだす。
「...まさか学院の制服のまま行くわけじゃないよね?この国では咎められはしないけど、さすがに貴族街を平民がウロウロしてたら目立つよ?」
「わかっている。」
人が少ない路地に入り、すっと手を空中で軽く振る。
すると、空間に亀裂ができ中に手を入れ引っ張ると白とベージュ2着の外套が現れた。貴族街では地味な服装の方が目立ってしまう。
ベージュのローブタイプの外套をフェルに放り投げると派手な服装の苦手なフェルは「...グレーとかないの?」と不満顔でしぶしぶと袖を通した。
自分自身は白いコートを羽織り、路地から出ると日差しとともに俺の視界に見える自分の長い前髪の先の色がダークブラウンから光を纏い薄い金色へと変化していく。今の俺の髪色は貴族にありがちな薄い金の色に魔法で変化しているはずだ。
後ろにいるフェルのほうを振り返ると、彼は外套についていたフードを目深に被って黒髪を隠した。黒髪は貴族でも平民でも珍しい色だ。平民街では暗い髪色が多いのでさほど目立たないが、煌びやかな髪色が多い貴族の居住区画ではかなり目立ってしまう。
俺が魔法で髪色を変えてやることもできるのだが、フェルはその髪色を一時的にでさえ変えることを嫌がるのだ。明るい色にすると兄と同じ顔になってしまうからという理由らしいが。
さっきのチェラードの授業でもあったように、現代では王族に生まれてくる者は銀髪なのに、国民はそうではない。
銀に近いグレーや白髪、金髪、水色茶髪...沢山の髪色がある。しかし、建国前は海の民は皆、王族と同じ銀髪ばかりだったらしい。
それは海の神が勝利したため、陸の民の村落のほとんどがなくなりシーガーディアン国を初代国王が建国した際にリーダーも村もなくした陸の民たちが国内に流れ込んできたからである。
そして戦禍でぼろぼろになった国の復興により、貿易や文化が発展し、さらにいろいろな国から行商をかねて様々な髪の色の人種が流れ込んだり定住したりするようになったのだった。
貴族街は王宮の周りを囲むように放射線状に拡がっていて、東西南北の位置にそれぞれ最有力貴族がタウンハウスを所有している。
そして今俺が向かっている貴族街最南端に立つ文教区に1番近い場所に位置する白い邸宅。それは『海を照らす光』を一族の髪に持つ、ガーラント公爵の屋敷であった。
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