第16話
一体、なにが起こった?
これは何なの?
(レオンハルト様が私を抱きしめて...い、る......?)
「うわうわうわうわあぁぁぁぁぁぁっ!!??」
「本当は今日君に会った瞬間に言いたかったんだ。」
挙動不審になった私は思い切りレオンハルト様の胸板を両手で押し除けるよう腕を突っ張ろうとするが、敵の包囲網は思ったより強固でなかなか腕の中から脱出することができない。
「なのに、フリッツなんかに先を越されるなんて。しかも君の......。」
首筋を何か柔らかい感触のものがさらっとかすめ、前を向いたまま恐る恐る視線だけをそちらにやると肩にサラサラの乱れた銀髪が乗っている。
「君の肩を抱くなんて...。」
(ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!)
乗ってる!
肩に!
レオンハルト様の額があぁぁぁぁぁぁぁ!!!
これは何だ?なんの攻撃だ?
自分の体から根こそぎライフポイントを奪われた私は声にならない悲鳴をあげ、ただただ白い抜け殻になって立ちつくした。
いや、声にならなくて良かったのかもしれない。
今の悲鳴が声に出ていたら、確実にガーラント公爵家のマナー教師に休日全てを補講で埋められていたと思う。
「アリシア...。あまり美しさを僕以外にひけらかせないでくれ。」
鼻頭を押し付けるように懇願され、ヤマアラシとハリネズミが突きまくっていた心臓が今度は見えない弓兵達によってブシブシと矢で突き刺される。
「うっ。......でっ、ですが、せっかくレオンハルト様がご用意してくださった衣装を私は自分の身勝手な考えで作り替えてしまいました。
ごっ、ご気分を害したのでは?
こんな身勝手な者はあなたに相応しくは...」
「いいんだよ。アリシア。そのドレスは君のために用意したものだ。だから君の好きなようにすれば良い。
それに悔しいけど、フリッツの言ったことはその通りなんだ。
今日のガーデンパーティーは僕の未来の側近や従者、そして国を支える学者たちの目星をつけるために将来有望な若者達だけを招待して開かれたものなのだよ。
その会に、君はこの国の原点ともなる建国当時のデザインを模した衣装を纏ってきた。これはすごく意味のあることなんだ。
君のおかげで、君や僕が本気で国の繁栄を願っていることを貴族や学者達に知らしめることができたんだよ。」
「わ、私のおかげだなんて!私はまったくそんな考えがあって作り直したわけではな......」
「それに、君が僕たちの将来をそこまで考えてくれているとは思わなかった」
へ?私達の将来?
なんのこと?と不思議に思っていると肩に乗るレオンハルト様の額の体温がなぜか少し上がった気がした。ボサボサの髪から出ている彼の耳もやたら赤く染まっている。
「...フリッツが言っていた。君がいま着ている古典スタイルのエンパイアドレスは、か、懐妊後も着ることができるため建国時の女性達に愛用されていたと」
「カイニン?」
KAININ?
解任?
...............懐妊?
..............。
それって、私がレオンハルト様と結婚後に妊娠しても着れるようわざわざドレスを締め付けのない古典衣装に作り替えたと周囲に思われてるってこと...?
じゃ、じゃあ、ガーデンパーティー会場で挨拶時に男性達が頬を赤らめていたのって...。
ご令嬢達が目を潤ませながら扇で口元を隠していたのは嘲笑っていたのではなく、将来を見据えた次期王太子妃に感激しての涙......って、ちょっと待って!すんごい、すんごい恥ずかしいんですけどっ!!!
「ちっ、違いますーーーーーぅぅ!!!!」
自分のありったけの力をこめて今度こそ私はレオンハルト様を3メートルは突き飛ばしたのだった。
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