第95話 ≪リオ
「はいはいはーい!なんだか楽しそうだね、キミ達!
敬愛する僕の授業でテンションが上がってしまうのは仕方がないけれど周りのかわい子ちゃん達の勉強の邪魔になっちゃうから静かにねっ♡」
目の前にいきなり灰色の瞳が視界いっぱいに広がり、しかもその瞳の持ち主が手入れの行き届いた爪先で俺の唇をちょんとつついた。
「◯×□△◯◯×◇○!?」
あまりの気持ち悪さにガタガタガタッと椅子を倒しながら後退する。
「なっ!?チェラード!っ......先生っ!?
なんでっ!?今日の4時限目はラス先生じゃなかったのかっ!?」
「んっ、んっ、んっ、僕に会えて大興奮だね♡」
「...大興奮?」
フェルがボーっと前を見ながら聞き返す。
「チェラード先生の戯言に本気で考え込むなフェル!」
俺が頭を抱えていると、教室の端の端まで避難したソラルがチェラード先生の魔の手から顔面を制カバンでガードしながら教えてくれた。
「あー、おまえ休んでたから知らなかったか。チェラード先生も王宮の仕事の都合があって、先生の講義はずっと休講だったんだ。だから今日のこの時間はラス先生の講義と交代になったんだぜ。」
ソラルの説明にチェラード先生が両手を自分の腰に当てうんうんとにこやかに頷いた。
「ふふふ。そうそう。ずっと休講で申し訳なかったね。ようやく落ち着いてきたから、やっと学院にこれたよ。」
「ああ、お詫びにデートでもしようか?」と周りの学生の手をチャラく取り、手を取られた男子学生が青くなって首を振っているのに、「恥じらっている君も可愛いよ♡」と血迷った発言をして、どうやったらそこまでポジティブに勘違いできるんだと俺を含め周囲の人間が顔を引き攣らせる。
「先生、何か重要な仕事があったんすか?」
ソラルがあまり何も考えずに、いや普段もコイツはいつも女性のことしか考えてないが、今も何も考えずにチェラード先生にそんな質問した。
チェラード先生は「おや?」と呟くと、質問したソラルではなく、なぜか俺のほうをベルベットリボンで一つ括りに結ばれた金髪をサラリと揺らしながら振り向く。
「うんうん。なかなか重要な仕事だったよ。
ねぇ?リオ君。」
俺を見る明るい灰色の瞳。
やたら含んだ言い方をするチェラード先生から俺は視線をそらし、すでに出していたラス先生の授業の教科書を制カバンにしまい代わりに歴史の教科書を出した。
「そうなんですか?俺は平民なんで王宮のことはよくわからないですけど。大変ですね。」
「おやおや。」
ツンと人差し指の先で俺の頭に触れるチェラード先生。
「そうだね。君にはわからないか。
ふふ、それにしても綺麗なダークブラウンの髪だね。
窓からの光に透けるとまるで昔、自治区で見た一面に広がる稲穂のよう。」
俺の髪の色の話になったことに隣のフェルが視線は違う方向を見ながらもぴくりと反応したのがわかった。
「どうも。髪の色は生まれつきです。俺は平民なので。」
何が言いたい?とチェラード先生を睨むと、相手は逆にクスクスと嬉しそうに笑う。
「そうだね。この国の王族やその血縁なら海に反射する月の光のような銀の髪をしている。」
「......。そうですね。」
「じゃあ、どうして海の神の国であるこのシーガーディアン国の国民全員が銀の髪ではないのか。
高位貴族にはさまざまな髪色、瞳の色が存在する。そして平民である者はさらに様々な色を纏っている。
どうしてこのようなことになっているのか。
さあ、今日の講義はこれがテーマだよ。
古代史をおさらいし、民族の歴史を学ぼうじゃないか。教科書の124ページを開いて。」
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