第90話
ふふふふふ(アリシアなみのあやしげな笑い)、まさか翡翠がこんなに連日投稿するとは読者の皆さんは思っていなかったことでしょう笑。
人物紹介も少し追記してます。そちらも要チェックです。
手からするりと便箋が落ちた。
エルケがはっとしてその水色の便箋を掴む。
「お嬢様......?いかがいたしました?」
「っ。なんでもないわ。大丈夫。拾ってくれてありがとう、エルケ。」
大丈夫と言いながら額に手を当てて一点を見つめ固まっている私の姿はエルケには全く大丈夫には見えていないことだろう。
「ねぇ、エルケ。レナーテ様の謹慎はいつ解けるのかしら?解けたら王都にお戻りになられる?」
「どうでしょうか。エルドナドル公爵夫妻はしばらくの間領地へと連れて帰ると仰っていらっしゃったそうですから、いつまでとは明確ではないかもしれません。
それに王太子の婚約者選考もすでに終わっていますから、レナーテ様が王都に戻られるかどうかもはっきりしませんね。」
「そう...。それだったら、王都からエルドナドル公爵領までは転移魔法なしだと何日かかるかしら?私がガーラント公爵邸から出してもらえる日もいつになるのかわからないけど。」
そう質問しなおすとエルケはダークブラウンの細い眉を寄せた。
「アリシアお嬢様はエルドナドル公爵令嬢様にお会いして王宮であったことのお礼をしたいのでしょうか?
それならばその必要はないような気がわたくしはいたします。元はと言えば、挑発するような失礼な発言をなされたのはあちらのほうですから。
もしあのあとお嬢様の魔力暴走を止めてくださっていなかったならば、確実にこのわたくしめのブラックリストの仲間入りでしたわ。」
えーと、そのブラックリストに名前が載るとどうなるのかは怖いので聞かないでおくとしよう...。
「お礼はしなくても良くても、彼女にあってその手紙の内容を確かめたいのよ。」
「この手紙の?ですか?」
拾ったもまま手にしていた2つ折りの便箋にエルケが視線を落とす。
「わたくしが中身を確認してもよろしいでしょうか?」
「ええ。いいわ。」
私の許可を得てエルケが折られていた便箋を開いた。
「これは......?
何かの記号?いえ、他国の言葉ですか?わたくし近隣諸国の言葉は専属侍女になる際にガーラント家から教育を受けましたが、この文字は見たことがありません。お嬢様はこちらがおわかりに?」
目を見開くエルケに無言で頷く私。
ええ、この手紙はエルケには読めないでしょう。
もしかしたらこの国には私とレナーテ様以外に読める人はいないかもしれない。
だって、この文字は、
「これは日本語よ。」
「ニホン、ゴ?」
そう、エルドナドル公爵令嬢レナーテ様からの手紙はシーガーディアンの言葉では書かれていなかった。
転生してから見なかった懐かしい字形に過去の日本人だった私を思い出し、切ないようななんとも言えないくしゃりとした表情になってしまう。
そして、綺麗な日本語で書かれた水色の便箋にはこう書かれていたのだ。
『ヒロインは私だけではない。』
ーーー書かれていたのは、ただこの一言だけ。
でもこの一言でじゅうぶんだ。
おそらくレナーテ様は、同じ転生者。
しかも、このゲーム『5人の王子と謎めいた王宮』を前世でプレイしたことがある人物。
王宮でレナーテ様の前で私が錯乱したときに発してしまった『主人公』という言葉から、彼女はおそらく私が転生者だと気付き、謹慎で連れ戻された領地からこの手紙を送ってきたのだろう。
私が転生者でゲームを知っているのならこの手紙を読んだあとに必ず自分に接触を図るはずだと思って。
彼女が転生者なのだとしたら、今までのゲームのストーリーと違うレナーテ様の行動や性格も納得がいくわ。
ただ、よくわからないのは『ヒロインは私だけではない』という手紙の内容。
私だけではない?
他にもヒロインがいると言うの?
これはいったいどういう意味なんだろう。
◇ブックマーク、評価で応援いただけたら嬉しいです。いいね、や感想も執筆の励みになってます。ありがとう。