第89話
「レナーテ様から?」
一瞬受け取ることを躊躇してしまった私にエルケが首を軽く横に振った。
「お嬢様。わたくし、エルドナドル公爵令嬢様は、あの方の発言の数々から主の敵かと思っておりました。」
「思っていた、ということは今は思っていないということ?」
「はい。」
エルケは背筋をピンと伸ばしたまま無表情でたんたんと答える。
「あの日、エルドナドル公爵令嬢様と廊下でお会いした日、アリシアお嬢様は王宮で魔力を暴走しそうになりました。」
「しそう、じゃなくて暴走させてしまったの間違いじゃない?だから、私は王宮から療養という名の謹慎を今受けているのでしょう?」
何を今さら。だから罰としてガーラント邸から出してもらえず、レオンハルト様からは茶会の招待状どころか手紙すら来ないのだろう。
「違いますわ。
お嬢様は魔力を暴走しかけましたが、暴走はさせてはいないのです!
なぜなら、エルドナドル公爵令嬢様があの場でお嬢様の暴走を止めてくださったのですから!」
「.........え?」
「あの時、お嬢様の感情が昂ぶって魔力制御ができなくなったとき、わたくしはお嬢様へと手を伸ばしましたがお嬢様の放出した魔力壁に阻まれて近寄ることさえできませんでした。
その時、とっさにエルドナドル公爵令嬢様が光魔法でアリシアお嬢様を包み込み魔力暴発を光魔法で押さえ込んで、自らの力が暴発したかのように見せかけたのです。」
...........っ!?
「なっ.......!?そんなことをしたらレナーテ様自身が......!!」
「はい。今レナーテ様はエルドナドル公爵領の領地へご両親によって連れ戻され謹慎中ですわ。」
あまりのことに愕然としてしまい、声が出ない。
レナーテ様が私を救ってくださった?
わたしのこと目障りだと仰っていたのに?
「王宮内での光魔法の使用は闇魔法のように禁忌とはされていませんから、それほどの罪には問われなかったようです。ただ宮殿で魔力暴走をさせたことによる謹慎としてエルドナドル公爵様と公爵夫人様がエルドナドル公爵令嬢様を自ら引っ張って帰られたと伺っております。」
「そんな......。レナーテ様が私を助けてくださっていたなんて...。そして私のせいで今謹慎を受けているというの......?
じゃあ、あの時、ぐらぐらとする意識の中で、「しっかりなさい!」と私に叫び続けてくれた声はもしかしてレナーテ様だったの?」
コクリとエルケがうなずく。
「お読みになりますか?レナーテ様からのお手紙を。」
エルケに促され、改めて受け取った水色の封筒を見つめる。
この中にはどんな内容が書かれているのだろう。
「ええ、...読むわ。開けてくれるかしら?」
ピリピリリとエルケがペーパーナイフを使って封を開ける。
「どうぞ、お嬢様。」
「ありが.........えっ!?」
再びエルケから封書を受け取って、レナーテ様の手紙を読もうとした私は、そこに書かれている内容にひどく驚き固まってしまったのだった。
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