第15話
「すまない。アリシア。私は、いや僕はもう限界だったんだ」
婚約についてはシナリオの変わらない現状に私の涙が再度じわっと出てきそうになったその時、レオンハルト様は繋いでいた私の手を自分の顔下の高さまで持ち上げ、苦しそうな表情で呟いた。
限界?
いい加減こんな私に愛想が尽きたということだろうか?
それならば願ってもないことだ。レナーテ様との障害になり得る私との婚約など早く破棄すべきだったのだから。
レオンハルト様の荒ぶっていた魔力は落ち着きを取り戻し、瓶底メガネも通常色?である透明へと変わっていた。今すぐ粛正される雰囲気でなくなったことにホッと胸を撫で下ろした私は彼の分厚すぎて瞳が見えない眼鏡ごしにしっかりと彼を見つめた。
「だから、再三申し上げているではないですが、もっと早く行動に移すべきだったのです。(婚約破棄を)」
「あぁ、君のいう通りだ。」
「やっとわかってくださったのですね!」
良かった!これで私の国外追放&死亡フラグは回避できる!
ガーラント公爵家も安泰だし、エルケや仲良くなった子爵令嬢達とも離れずに済むのねっ。
「じゃ、じゃあ、早速お願い致しますっ!」
「今ここでかい?いや、だが、やっぱり面と向かってはさすがに......。」
どうやらレオンハルト様はこの場所で婚約破棄宣言をすることに躊躇しているようだった。
ガーデンパーティー会場からずんずんと2人で歩いてきた今いる場所は小さな噴水のある小庭園だ。
先程の大きな庭園に咲いていたバラや八重咲きキキョウのような華やかな花はないが、まるで森や林に開けた秘密の場所のように小さな花々や草木達が自然な感じで植えられている。
確かに婚約破棄宣言をするには見届け人はいないし、パーティー会場のように華々しい雰囲気もない。
だけど私はどうしても今きちんと言質を取りたかった。レオンハルト様が急に心変わりして婚約を継続されてしまっては私は2年後にバッドエンドを迎えてしまうのだから。
「今、聞きたいのです。私自身の耳で。」
懇願するようにレオンハルト様を見上げると「うっ...」と何故か後ずさって彼は横を向いてしまった。
「...上目遣いは反則だろ......」
何やらぶつぶつ仰っているが声が小さすぎてよく聞こえない。
ん?横を向いたレオンハルト様の耳が赤い?
お風邪をひかれたのかしら?
やっぱりさっさと宣言していただいてガーデンパーティー会場に戻るべきだわ。
「レオンハルト様...。」
「わ、わかった!じゃあ、言おう」
レオンハルト様は振り返り私と繋いだ手に視線を落とすと、その手をじっと見つめ小さなため息をついた。
「アリシア」
すっと彼の顔が上げられ、ずっと何年も私が待ち望んでいた言葉が今彼の口から宣言される。
「今日の君は言葉にできないほど美しく可憐だ」
「はい、謹んで婚約破棄をお受け.........。は?」
うつく......?
次の瞬間、軽く手を引っ張られ、同時に柑橘系の香りが鼻腔をくすぐった。
「可愛いよ。」
訳がわからず目を見開いたままの私は、気がつくとレオンハルト様の腕の中にきつく抱きしめられていた。
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