第85話 ≪レイノルド
レイノルド語りは終了。次話からアリシアに戻ります。
「アルフォンス殿下発言をお許しください。」
テオやハインツのように公爵家の者でない俺はアルフォンス殿下に発言の断りを入れた。
殿下は無表情のまま俺を見る。普段他人に無関心なアルフォンス殿下が顔をむけてくださったということは、『話して良い』という意味なのだろう。
「今の我が国の情勢を考えると、昔のように他国からの脅威もさほどありません。隣国ルビナスは先代国王がご健在の間は我が国との同盟が解消されることはないでしょうし、現国王もヘスティア様が我が国にいらっしゃる限り我が国との友好関係は続けられると思います。その他の隣国は貿易の現状を維持したいならば、魔獣生息地域を越えてまでの遠征は今のところ現実的ではありませんし、海を越えた先の帝国や諸外国も海底神殿のある我が国を神聖視されている神海を渡ってわざわざ攻め込んでくることも考えにくいです。
だとすると、宮殿の周りの古代からの守りが多少弱くなったとしても、緊急を要する事態に陥ることはないのでは...?」
アルフォンス殿下は、じっと最後まで俺の意見を聞いた後、無表情なまま俺達を見渡した。
「そうだ。他国からの脅威はない。」
「その仰り方ですと、他国以外からの脅威があるような仰り方ですよね。」
そう言ったテオは、はじめから何か勘づいていたのか、アルフォンス殿下とチェラード所長に探るような視線を送っている。
「僕から話そうか?」
いつもな平然と王族の前で喋るチェラード所長がアルフォンス殿下に珍しく発言の許可を請うが、殿下は首を振った。
「私から話そう。
テオドール、結界の強化を。
おまえの光魔法の結界はヤツの遠隔魔法を跳ね返す。」
「「ヤツ.....?」」
ヤツとは一体、何のことだ?
「わかりました。」
何となく殿下の話す内容に予想がついているのかテオドールはさほど疑問に思っていないようだった。さっと結界を強化する。テオの身体が一瞬光ったから光魔法の結界の上からおそらく光魔法の中でもさらに強固な聖魔法の結界を重ね付けしたのだろう。
アルフォンス殿下は、結界強化を確認すると、心がざわついている俺たちを落ち着かせるためなのか、いつもよりゆっくりした口調で話し出した。
「この宮殿には周りに濠があり、そこは古代魔法、つまり我らの先祖たちの魔力の遺産により海水が導かれ、濠内を海の神の守りの力で満たされたその海水が取り囲むことで宮殿を守っている。」
「ええ。」
「それは我が国の者なら皆存じております。」
「.........。」
頷く俺とハインツ。
しかし、テオは頷きもせず、無言でアルフォンス殿下の次の言葉を待っていた。
傍らで俺たちを見ているチェラード所長はいつもながら飄々としていて口元は笑っているが、その眼差しはどこか複雑な彼の感情を表したかのように笑っていない。
何だ......?
何がある?
殿下の話が国家規模の重大な内容であることが伝わってきて、俺はごくりと喉を小さく鳴らした。
「しかし、実際は違う。
この外濠の海水は宮殿を外部から守るものではないのだ。
......この海の神の力が含まれた海水が守っているのは王都の民や国民、いや、世界そのものかもしれん。」
普段表情を動かさないアルフォンス殿下の眉間に小さく皺がよる。
「なっ!?どういうことですか!?」
ハインツが驚愕して身を乗り出す。
外部から守るものじゃない?
だったら、海の神や古代の人々が危険視しているものがある場所というのは......。
「神海からひいた海水は、宮殿を外部の脅威から守るのではなく、”宮殿の脅威から″外部を守っているのだ。
宮殿というよりも、宮殿内に残る古代の王城からな。」
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