第82話
「だから言ったのにっ。あんな場所で魔力を暴発させるなんてっ!僕、注意したでしょ!?」
「仕方ねぇだろ。この子の闇の力があの女のせいで急激に増加しちまったんだ。人間の感情は時に信じられねぇくらい強いんだぜ。そうなったら俺らにはもう手出しできねぇ。」
「そこをなんとかしなきゃでしょ!?」
「無茶言うなよ。」
ーーーー誰かが、頭の中で言い合っている?
ーー誰?
「僕より体が大きいんだから、ちゃんと大きさに見合った仕事してよねっ!」
「あのな...!この姿はこの子の希望の姿だろ?俺が好きでこの姿になったわけじゃねぇっつーの!魔力もおまえと半々だろがっ。」
「あー言えばこー言うじゃない?」
「おう!言ってやるぜ。だいたいなんでオマエだけこんなこの子ウケいい姿してんだよ!気にくわねぇ。」
「僕の方が可愛いからに決まってるでしょ。手のひらサイズだから良いとか言われちゃったし!羨ましいでしょー?」
「ムカつく野郎だぜ。だがな、女ってのは結局最後は強い男のとこに来んだよっ。俺みてぇなカッコいい男のとこにな!!」
「はぁ!?何言ってるの!?そっちこそムカつくんだけど!?
だいたいそんな姿じゃ男じゃないじゃん!?オスでしょ!?オス!!」
「んだと!?てめぇもだろが!!」
「僕は男だから好かれてるんじゃなくて、存在自体が可愛いってこの子に思われてるんだからね!」
ーーーーうーん。なんかよくわからないけど、誰か達が近くですごく言い合いしてる?おーい、喧嘩はよくないわよー。
ふわふわ真っ暗な闇が舞う。
時折キラキラと光が差す。
なんだか不思議な空間。
体を動かそうにも動く力がなくて、そもそも意識しか今の私にはないのかしら?力が入らない。
ただふわふわと漂うだけ。
もしかしてこれは夢の中なのかな。
ボーっと当たりを見渡す。
口喧嘩をしている声の主達は近くにいる気配がするのに、なぜかその姿は見えなかった。
「ったく。ムカつくが、今は言い合ってる場合じゃねぇだろ?」
「......そうだね。あの銀色の王子様が、あいつを抑えてくれなかったらこの子はあいつの闇に取り込まれてしまってたよ。」
「そしたら、俺たちも終わりだ。
俺たちは宿り主が死ねば消滅する。」
「そうだね。10年以上共に過ごしたんだ。
僕達が消滅することを抜きにしても僕はこの子に生きて欲しいと思うよ。
だって、ずっとこの子が頑張ってきたのを僕達は見てきたんだ。」
「......ああ、そうだな。」
それきり声はしなくなった。
かわりに真っ暗な闇が白んできて。
時折差していた光とはまた違う、あたたかな光があたりを塗り替えていく。
「アリシアお嬢様!」
目覚めて見えたのは見慣れたベッドの天蓋。
横を向けば、エルケの心配そうな顔が間近にある。
ガーラント家の自室に、私は寝ていたのだった。
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