海底神殿と赤い髪の勇者 16
やっとエアハルトの過去話完結。このあとゼリンダsideを1話入れようかと思ってます。ちょっと本編に関わる内容です。
「じゃあ本題に入ろうじゃない?」
ゼリンダが赤い水トカゲと俺のそばから体を翻し泳ぐように神殿中央の祭壇まで飛ぶ。
ふわりと緩いウェーブの銀髪が俺の目の前を横切った。
そして、やっぱり祭壇に乗るのか。
土足はやめておけ、土足は。
「さあ、どうする?海への誓いを。」
祭壇の上で両手を真横に広げたゼリンダの後ろにゴゴゴ...と音を立てて、大きな石の壁が現れる。
その壁には、青く光る青年を囲み、彼を拝む沢山の人の絵が描かれている。
あの壁画の青年はおそらくこのシーガーディアン国の最初の王。かつての海の神の姿だろう。
「俺は......。」
顔を上げゼリンダとその後の海の神の壁画をまっすぐと見つめた。
「この海に、この国に誓いを捧げる。
我が命をこの海の在る世界の平穏のために使うと誓おう。」
ゼリンダが一瞬、ほんの一瞬、目を見開いた。
そしてすぐに目を細め微笑む。
それは今までのような少女のような笑みではなく、慈愛に満ちた、まさに女神の微笑みだった。
◇
ーーーーーザザン、ザザン。
「あれから数時間しか経ってないのに、海の中にいたのが本当にあったことなのかと思うほど儀式とは非日常的な体験だったな。」
ーーーーザザン、ザザン。
打ち寄せる波の音と俺の赤い髪をなびかせる潮風を感じながら、今この瞬間もどこかに存在しているであろう海の女神のいた神殿がある海を見る。
神殿から王宮に帰り、成人の儀式が全て終わったあとに開かれた生誕パーティーを途中で抜け出した俺は今、正装を脱ぎ動きやすい略装に着替え、夕暮れの海岸へと来ていた。パーティーは途中からは母親たちのただの酒盛りになるからな。からまれないうちに兄弟達も退散していった。
ついてくると一緒にパーティーを抜け出した赤い水トカゲは俺の隣でへばっていて海を眺めるどころではないようだが。
「おまえは馬に乗るのが初めてだったんだな。大丈夫か?」
乗馬酔いした水トカゲはいつも通り笑っている顔が今は魂が抜けたかのような笑顔になっていた。
ここは、儀式で神殿に向かう際に転移魔法で訪れた海岸沿いに作られた地上の祭壇だ。この祭壇から続く海面に儀式の際は、海の神の意思により海底神殿に続く白い階段が現れる。
この場所に俺は水トカゲを連れて再び馬を走らせて来ていた。
沢山の海の幸や聖水の供えられた祭壇を通り過ぎ、儀式中に階段が現れた海面に近いところで足を止める。
水トカゲもヨロヨロと俺についてきた。
そして、俺は担いできた袋の中のものを足元にならべた。
シェフ作りたてのスープに鶏肉の照り焼き、マカロン、種類はよくわからないが生クリームのケーキ、そして母達絶賛のワイン。
「ゼリンダ。届けにきたぞ。」
俺の脳裏に『いいなぁー。アタシも地上に出て美味しいもの食べたいわぁ!』と嘆いていた海の女神の顔が浮かび上がる。
すると横にいた水トカゲが『なになに?なんで食べ物おくの?』と不思議そうに首を傾げた。
「こんな場所に置いても彼女には届かないがな。神官たちが置いた供物には飽きたとわめいていたから。」
まるで人の子のように世俗的な振る舞いをする女神を思い出してついふっと笑ってしまう。
ザッパーーーーン!!
「は?」
俺と水トカゲは急にきた大波に頭からびしょ濡れになり目が点になった。(水トカゲはいつも点だがな)
「なっ、なんだ!?急にありえない波が......?あれ?供えたものがない...??」
供えたはずの食べ物やワインが全て波にのまれたのか消えていた。しかし、目の前の海面にそれらは浮いてはいない。一体どこに...?と思いかけて、足元を見た俺は合点がいき、思わずふっと笑いが込み上げる。
足元の白い石の床には“ありがとん”と明らかにゼリンダの口調で水文字が書かれており、その文字は俺が読み終わったと同時に、すっと波の音とともに消えていった。
《海底神殿と赤い髪の勇者 完》
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