第14話
あぁ、私の人生(2回目)もここまでか...。
思えば今回は1度目の人生よりも短い人生だったわ。
でも実家がけむたくて一人暮らしの上、白くない企業でひたすら働きいつの間にか死んでしまった前世よりも、今回は仲の良い(良すぎる)家族の元に生まれ、(溺)愛してくれる父母と、妹を(激)甘やかしてくれる優しいテオ兄様と短い時間ながらも一緒に生きることができた。
それだけで本望だわ。うん。
私の前を進むレオンハルト様の背中がボヤけたと思ったらどうやら無意識にじわっと涙が目を覆っていたらしい。
「............っ」
泣くものかと堪えるが無情にも涙はポロポロと頬を伝っていく。
「アリシアっ!?泣いているのか!?」
嗚咽をこらえ忍び泣いていた私の気配に気付いたレオンハルト様がハッとした表情で振り向いた。
「どうしたんだ?もしかして繋いだ手が痛かったのか?すまないっ...つい」
「.........?」
いつも冷静沈着なレオンハルト様がわたわたと慌てふためいている。王子達の婚約者候補に決まった5歳から王宮で何度もレオンハルト様にお会いしているが、今日のように取り乱した様子の彼は初めて見た。
そう言えば、先程のガーデンパーティー会場でも普段抑え込んでいる魔力が彼の体から無意識に放出されていたような気がする。
あまりの驚きに私は泣くのも忘れ、ぽかんと口を開けて彼を凝視してしまった。
この人は本当に第三王子レオンハルト様なのだろうか?
いや、国内1のこの魔力量、ボサボサだけど絹糸のように細く艶のある銀髪にすらりとした長身、さらには前世で毎日イヤホン越しに聞いていた耳に心地よいボイス、この人は確かにレオンハルト・シーガーディアンだ。
だが、こうやって感情を露わにするレオンハルト様は初めて見た。乙女ゲームの中でさえ、ヒロインにすらニコリと決まりきった微笑みしかしない落ち着いたキャラクターだったはずだ。
......そういえば、前世でプレイしていた乙女ゲームの中の彼はこんな分厚い眼鏡をかけてなどいなかった。
瓶底のような黒縁メガネは決して伊達ではないようで、レオンハルト様は極端に視力が悪いそうだ。
そんな設定はゲームにはなかったし、前世の私のように疲れ切った腐女を癒すのがコンセプトであるゲームの主要キャラがこんなボサ頭にメガネ君のはずがない。
それに第三王子の周りに第一王子ルートにしか出ないフリッツがいることも不自然だ。
(何かがおかしい。ゲームシナリオが書き変わってきている?だったら、なぜ......)
だったらなぜ、こんなに頑張っても婚約破棄だけができないの!?
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