海底神殿と赤い髪の勇者 15
笑いが収まらないのかそう言って体を丸めて震えながら腹を抑えている。
マジってなんだ?最高ってなんだ?
彼女が話す言葉の意味はよくわからないが、彼女がさほど怒ってないことだけは俺にもわかった。
ヒーヒー言いながら、顔を上げる。
「あー、おもしろい。
こんなに笑ったのは久しぶりよ。」
呆気に取られている俺の前で、笑い涙を拭いた女神が目を細めた。
「ずっと、ずっとさ...
ここに1人だったから。
たまにくる王族は、儀式だけ済ましてすぐ帰っちゃうしね。」
その視線は俺を通り抜け、まるでどこか遠くを見ているようだと感じた。
「さて。」と言いながら、彼女はひょいと俺の横にいる赤い水トカゲの脇を掴む。
かなりの重量の水トカゲをいとも簡単に抱え上げるあたり、やはりゼリンダは人間ではない。
「アンタはお帰り。仲間の元にね。」
そう言って、結界の壁に水トカゲを押し当て通そうとするが、水トカゲは前足を突っ張ってまるでそれを拒否するかのように踏ん張っている。
「あら?帰りたくないわけ?こんなに傷だらけになってまで、あの巨大な鳥から逃げてきたのに?
じゃあ、アンタはどーしたいの?」
ゼリンダが水トカゲを足元に置くと、水トカゲは一度首を傾げ、俺を見た。
「もしかして、気に入っちゃった?あら!あらら!
もう、やっだー!このトカゲたらし!」
ニヤニヤ笑いながら、口に拳を当て「きゃあ♡」と言いながら俺の背中をバシバシ叩くのはやめてくれ。
赤い水トカゲはゆっくりと俺に近寄ると俺を見上げる。
「仲間のところに戻らないのか?」
俺が聞くと、今度は首を傾げずにまっすぐと首を縦に振った。
「だが、おまえは水のない場所に長くはいられないのじゃないのか?俺と王宮にくるのは不可能だぞ?」
水トカゲは長く陸に上がっていると体表が乾ききって干上がり生きていくことができない。
やつもそう思ったのか『どうしよう?』と言いたげに首を傾げた。
すると、急にゼリンダが俺たちの間に空中を泳ぐように割り込んでくる。
「ちっ、ちっ、ちっ!アンタ達、アタシを誰だと思ってンのよ?海の女神ゼリンダ様の力を見くびるでなーい!」
バアアアアアッ。
ーーー彼女の手から澄んだ青い光が迸った。
その青い光が赤い水トカゲを包む。
そしてすぐにその光は消失した。
「な、なにをしたんだ?」
目を見開く俺にゼリンダがニヤリと笑った。
「見てごらんなさいよー。天才ゼリンダ様の神の力を。」
彼女がすっと指差した赤い水トカゲの額には、青い紋様が描かれている。
「海の女神ゼリンダ様からの祝福よ。これで、この子は陸にいながらも体表に水をまとうことができる。つまりずっと湿った状態をキープできるってこと!
やだ!アタシってばやっぱ天才!めっちゃ良い女神!!」
「あ、ああ...。」
でしょ?でしょ?とやたら同意を求めてくるゼリンダに圧倒されつい無意識に頷いてしまった。
だが、確かにすごい。神という存在は、詠唱もなしにこんな力を使うことができるのか。
そっと水トカゲの青い紋章のついた額をなでてやる。
「俺とともに居たいのか?」
すると、赤い水トカゲは俺を見上げ微笑んだ。(いつもスマイル顔だがな。)
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