海底神殿と赤い髪の勇者 10
ビタンッ!!
激しく落ちてきた何かが、さらに激しい音を立てて俺の目の前の地面に打ち付けられた。
「...........大丈夫か。おい。」
この光景はどこかで見たことがあるなと思ったらあれだ、街中の馬車道や農村に視察に行った際に田畑の近くで荷馬車などの車輪にひかれたトカゲやカエルのあの伸び切った姿だ。
目の前の赤いソレはまさにそんな感じで手足をカエルのように広げぺったりと地面にうつぶせに伸び切っていた。
(まさか、死んだんじゃ...)
そう俺が思った時、そいつはむくりと起き上がった。
前足をつっぱり、「?」とでも頭上に付くかのように首を傾げ、ついで後ろ足もゆっくりと立ちあがらせた。
そいつは近くにいる俺にやっと気づいたのか、こちらを振り向くと、やたら可愛いその顔を今度は反対側に傾げた。
おそらく結構な負傷を負っているはずのそいつ......赤い水トカゲであるはずなのに、やはり表情はあっけらかんとしたつぶらな瞳に口元はまるで笑っているかのような弧を描いたままだ。痛みに強いのか、鈍いのか。
「はっ。」
かなりの重症な姿にそのスマイル顔のギャップについ笑いが込み上げてしまう。
そんな俺に赤い水トカゲはさらに首を傾げた。
「悪い。平気そうな顔につい笑ってしまった。
おいで。治してやろう。」
俺は、赤い水トカゲを怖がらせないよう(表情からして怖いものは無さそうだが)そっと近付くと、身体全体に治癒魔法をかけてやった。
キラキラと水滴が散り、水トカゲの傷が塞がっていく。
「俺は水系魔法があまり得意ではないから、深い傷は少し跡が残ってしまったが、動くのには支障はないだろう?」
そういうと、何か考えるように一瞬固まった水トカゲは、考えがまとまったのか、うん、と答えるかのように頷いた。
「驚いたな。おまえは俺の言葉が理解できるのか。」
水トカゲは神殿の近くに住まう大トカゲの一種で実物を見たのは初めてだが、王宮での家庭教師の授業で教科書に載っていた。しかし知能の高さまでは言及されていなかったから、人の言葉を理解するとは驚きだ。
俺は先程の岩の上にある怪鳥の巣を見上げる。
「あの場所から、トゲにまみれた巣の囲いを突破して逃げてきたんだな。立派だよ、おまえは。」
そう言うと、赤い水トカゲはうんうんとさらに頷く。
と、その時だった。
高い咆哮とともに、目の前の赤い水トカゲが一瞬で俺の前から消えたのだ。
バササササッ!
「ハルフ!?巣に戻ってきたのか!?」
いっきに急上昇した怪鳥ハルフは、自分の巣から逃げ出した水トカゲに腹を立て興奮しているのか、水トカゲを足に掴んだままぐるぐると旋回し鋭い声を上げている。
奴の鋭い爪が赤い水トカゲの体に食い込み、そのせいでさっきヒールでふさいだ傷から再び黄色い体液が噴き出していた。
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