海底神殿と赤い髪の勇者 ⑧
「なんだっ!?......鳥っ!?」
ほんの一瞬の出来事だった。
海上から海中に飛び込んできた大型の鳥が猛スピードで海底めがけて降りてきたのだ。
そして、水トカゲの群れに突っ込むと、すぐにまた海上へとすごい勢いで上がっていった。
「なんだったんだ。今のは?」
突然のことに剣の柄に手を当てたまま、呆然としていると、ゼリンダがちらりと海中に視線を送った。
「鳥がエサを取りに潜ってきただけね。よくあることだわ。」
「エサを?」
再び海中に目を向けると、鳥の襲撃は終わったのにいまだにわたわたと慌てている水トカゲ達がいた。
(あれ?)
視線の先には相変わらず30匹ぐらいの数の水トカゲが集まっていたが、さっきと何かが違う。
「赤い水トカゲがいない......。」
はっとして上を見上げるとさっきの怪鳥と思われる影が海面に飛び出ようとしているところだった。
クチバシに咥えられた何かが、海上から降り注ぐ太陽の光に照らされ、赤い体色を見せたと思ったら海上へと出た怪鳥の羽ばたきによって水飛沫が起こり、怪鳥もその赤い何かも姿を消した。
そして、しばらくするとボコボコと波たっていた泡がおさまり、辺りはまた静けさを取り戻す。
「まさか、さっきの赤い奴が連れさられたのか!?」
目を見開いて思わず呟くとゼリンダがふふっと笑った。
「そじゃない?あーんな赤い色してたら目立つしね。すぐに敵に狙われちゃう。まぁ、仕方ないわ。あの体色で海底であそこまで成長できただけでも奇跡よ。」
「そんな...っ!」
じっとこちらを見る水トカゲ達は皆確かに海底になじむような体色の暗い水色をしている。
「自然界の摂理よ。保護色で身を守り、住む場所に適応した体や色へと進化する。そうでない異質なモノは淘汰されていく。」
ーーー異質なモノ。
それなら俺もこの国にとって異質なモノだ。
「そうね。アンタも同じ。
この国ではとても生きづらい。」
俺の考えたことがわかったのだろう、ゼリンダはしゃがんだままウンウンと頷く。
......生きづらい?
生きづらいかこの国は?
俺が生まれたこの国は?
俺にとって生きづらいのか?
王宮は?
家族は?
民は?
そして......
「......いいか?」
「は?」
俺はまっすぐに上を見上げた。
「この結界に一瞬穴を開けていいか?」
「へ?何を言って??」
ゼリンダが立ちあがろうとする前に、俺は魔力を体内で膨張させ自分の剣に行き渡らせた。
剣先から閃光が走り、炎が渦を巻いて火柱を作る。
ドウっと音がして炎により空いた頭上の海の穴に、自身の水魔法で今度は神殿の床目がけて吹き出させた水の柱に乗り、俺は海上へと飛び出したのだった。
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