第13話
「レ、レオンハルト様......!」
ぐいっと腕をひかれ私はぽすんとレオンハルト様の胸元に倒れこむ。
びっくりしてレオンハルト様を見上げると口元は微笑んでいるが、彼の瓶底メガネが周りに噴き出している魔力のように何故か黒く染まっているのかわかる。まるでアイスコーヒーを入れたグラスの底のようだ。そしてよくよく見ていると口元の微笑みもやたら黒い笑いのような気がしてきた。
お、怒ってる?
もしかして怒ってますかっ!?
私まだレナーテ様に何もしてませんよっ?
そりゃ、さっき見た時、ちょっと主人公スタイル良すぎだし全属性魔法使えるし、ずるいなーいいなーぐらいは思いましたけどっ!
まだ2年あるはずの死亡フラグ、まさか立ってませんよ...ね?
「何をしていた?と私は聞いているのだが?フリッツ」
青ざめて固まっている私の頭上から、聞いたことのないほどの冷たい声がする。
「彼女の麗しいドレス姿を見てつい近寄ってしまっただけだよ、レオ。そんな怖い顔するなって。衣装をこんな自然に古典回帰なアレンジをして着こなすなんて素晴らしいじゃないか。君だって......あぁ、これは言っちゃダメか。
でも、ほら、いうでしょ?綺麗な花には虫がたかるものだよ。ねっ、アリシアちゃん」
レオンハルト様から発する冷気などものともせず、私に向けてパッチンとウィンクするフリッツはきっと鋼の心臓の持ち主に違いない。
「...............。」
ひいぃっ。頭上が氷点下のような冷たさだなと思ったらほんとにレオンハルト様の周りに氷魔法が発動され、庭園に舞う花びらを氷漬けにして射落としているんですけどっ。
無意識?無意識ですかっ?
「アリシア」
「はひっ」
しまった。死亡フラグの恐怖から変な声を出してしまった。
「おいで」
「えっ?」
いつの間にか私の右手はレオンハルト様の左手に繋がれていたようで、そのままガーデンパーティー会場の入り口を出て早歩きで外側にある庭園へと連れ出されていく。
「レオンハルト様?」
手を引っ張られ小走りに彼について行きながら彼の顔を伺うが、声かけに反応することもなく黙々とレオンハルト様は私を連れて歩き続ける。
まずい。紳士なレオンハルト様は本を読んでいる時でさえ、私が話しかければいつも必ず応えてくれるのだ。
つまり、返事をしてくれない今の状態はかなりまずい。もしかしたら2年を待たずに私はこのままレオンハルト様に粛正される......?
ぶるるっと身震いして、誰か助けてくれ、と後ろを振り向くと、いまだ頭にバラの造花を載せたエルケが『健闘を祈ります』書かれたとメモ帳とともに火打石を掲げているのが見えた。
たっ、助けなさいよー!!あんたは何かあったときのために隠れていたんじゃなかったのかーい!!
◇翡翠の小説好きだよーと思ってくださった方、ブックマークや☆評価いただけたら嬉しいです。