海底神殿と赤い髪の勇者 ⑤
今回、エアハルトの語りだけで終わってしまいました(^^;
短めな番外編にするつもりが本編にふれた部分を書いていたらなんだか長くなりそうな予感がしてきました...笑。
ドゥムーラ大臣は国土環境大臣だ。
国土環境統括局をとりまとめている。国内の道路整備や上下水道管理などを管理しており、シーガーディアン国から俺の母の出身国であるルビナス王国にまで伸びている地下用水路も彼の管轄下だ。
なぜ、シーガーディアン国から隣国ルビナスに水を送り続けているのか。
それは俺が産まれる前の話に遡る。
母は元々王族の生まれだが、俺の父、現在のシーガーディアン国王に嫁ぐ予定ではなかった。
魔力を多く持ち明るく社交的な母は太陽神の加護を受けた王族の1人として国民からも好かれていた。
ルビナスは、太陽の国の言葉通り、王族も民も街も明るく活気があり生き生きとしていた。
しかし、そんなルビナスもある時からしだいに不穏な状況に陥ってしまう。
ずっと恵みの水を民に与え続けていてくれた井戸が急に枯れてしまったのだ。ルビナス国内には元々カナートが張り巡らせられていたが、肝心の水が枯渇してしまったならば街に水が行き渡らない。
貯水槽の水の使用や転移魔法による水の確保などを行ってしのいでいたが、生命の維持に関わる水の極度の不足に国民の不安はどんどんと膨らんでいった。
各地での暴動、そしてあれほど民の心を明るく照らしていた存在だったはずの太陽神への不信感。
ついには、あやしげな雨乞い商法がはびこり、治安は悪化、国外へと脱出する民も増え、活気のあった太陽の国は一変、日陰の国へと姿を変えてしまったのだった。
このままでは国が弱体化する一方。ルビナスの特産物である魔鉱石目当てに他国から攻め入られるのも時間の問題である、国王はそう思い悩み連日の会議を重ねていた。
そこに手を差し伸べたのが、若き日の俺の父上である即位したばかりのシーガーディアン国王だった。
良いことするよな、父上。
良い年して成人した俺にまでパパと呼ばせようとしたり困った性格の持ち主であるが、さすが大国の王だ。
そして、父上はルビナスの国境近くから自国の豊富な水を分け与えることを決めた。
その謝礼にルビナス側は特産である魔鉱石の優先供給を約束したが、治安悪化による観光客の激減や他国への人口流出、とくに労働者階級の流出によりルビナスの財政は逼迫しており、魔鉱石の発掘を思うようにできる状態ではなかった。
父上はそれを責めることすらなかったが、ルビナス国王は国内でも上位に入るほどの火の魔力と器量の持ち主である自身の美しい孫娘をシーガーディアンへと嫁がせることに決めた。
シーガーディアン国は、太陽が降り注ぐにふさわしい素晴らしい国であると、我がルビナスは永遠に彼の国の友であると......。
シーガーディアン国に嫁ぐことになった孫娘の名は、ヘスティア・ルビナ。
美しき赤き髪を持ち、太陽神の愛し子とさえ言われた強大な火の魔力を持つ、若き日の俺の母上だ。
当時、海の神の血筋を大切にするシーガーディアン王家に太陽の国ルビナスの王族である母が嫁ぐことは、シーガーディアン国内、とくに王宮内ではかなり反発されたそうだ。
しかし、父上は友好の証として母を受け入れた。
その理由は、すでに正妃シャナス様もいらしたので、第二王妃とすれば問題ないと言う理由ではなかった。
ルビナス国の水が干上がったことも、それを救ったことによりシーガーディアン国とルビナス王国が友好国となったことも、そして、そのことにより、豊富な魔力の持ち主である母上がシーガーディアン国に来ることも、その全てに意味があるのではなかろうか、父上は当時そう思ったらしい。
乳母から聞いた話だが、なにより、母上が嫁いできたその日のシーガーディアン国の海は、太陽光をキラキラと反射し、まるで海の神の嬉しさを表すかのように、とてもとても綺麗な青で見るもの全ての者の心が安らぐほど穏やかだったという。
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