海底神殿と赤い髪の勇者 ③
「私の言うことが聞けないと言うのなら、どうなるのかおわかりかしら?」
王妃シャナス様は、いまだ俺を抱きしめる(捕縛しているとも言う)俺の母ヘスティアに零下の視線を突き刺してきた。
「なんだ?シャナの言うことを聞かねばどうなると言うのだ?」
母上が赤いルージュに彩られた形の良い薄い唇を尖らせて、シャナス様に対抗する。
周囲の人間は息を飲んだ。
と言っても、家族以外の周囲だけどな。
最近従事しだしたのだろう若い使用人達は、直立不動で青い顔で大量の冷や汗をかいている。
それはそうだろう。
歳の近い王位継承権を持つ息子達が互いにいる正妃、側妃などどこの国でも普通なら犬猿の仲だ。
「私の言うことが聞けぬと言うのなら......。」
バッと正妃シャナス様が右手を頭上にあげる。
「ひっ。王妃さまっ!いけませんっ!」
おそらく正妃が母上に対して何か魔法でも使うと思ったのだろう若い使用人のうちの1人の女性が青ざめた顔で母上と俺の前に転がるように飛び出してきた。
しかし、
シャナス様の右手からは魔法が飛び出すことはなく。
「この私が用意した大量の祝い酒を飲む時間がなくなると言っているのです!!」
バッと手を振ると、食堂の奥、父上の右背後にあった幕が上がり、大量の酒瓶が姿を現した。
パンパカパーンとシャナス様の侍従がラッパを鳴らし、紙吹雪が舞う。
「おおおおっ!!素晴らしいな!シャナ!
この酒は全てそなたが用意してくれたのか!?」
「当たり前ですわ。
今日は可愛いエアハルトの祝いの日。
これが飲まずにいられましょうか。」
シャナス様は、すごくありがたい言葉を言ってくれてるようだが、いかんせん氷のような無表情なので、飲まないと滅しられそうな気分になってしまうのがいささか残念である。
「おおお....!我が祖国ルビナスの火酒もあるではないか!それにあれは北の国の秘蔵酒と言われてるものでは...。ああ!すごいな!シャナ!感謝する!今日はともに飲み明かそうぞ!」
「ほほほ。望むところですわ。
王はこういうときは役に立ちませんからね。」
「ひどいなぁ。パパは執務に忙しいから飲まないだけだよね?なぁ、エアハルト。」
父上、俺を巻き込まないでくれ。
しかもパパって見た目でもないだろうが。
「......パパ?」
アルフォンス兄上、眉間に皺を寄せまくって疑問形で呟かないでくれ。ちょっと父上が調子に乗っただけだからっ。
そして気付けば、俺を抱きしめる母上の手が歓喜でプルプルと震えている。
ああ、これはまた厄介なことになるなと察した瞬間。
バーンっと俺の体は自分の席に打ち付けられた。
「さすがはシャナ!!
こうしてはおられぬぞ!
エアハルト!早く座れ!さっさと食べて儀式を終え、そして宴会だ!!
ん?どうした?食欲がないのか?」
「......あなたが俺を席にぶん投げたから顔面打って伸びていただけです。」