第77話
同サイトにて短編小説『コレじゃない物語 ー攻略対象者にうっかり攻略対象にされましたー』を投稿しました。ラブコメです。もしよろしければ、そちらも読んでいただけたら嬉しいです。
翡翠の作品にしては珍しく男性キャラが残念なイケメンではなく正統派イケメンです笑笑
「.........レオンハルト様はあなたを愛しているのに?」
「え?」
下げた腕の先の両手をぎゅっと拳に握り、下を向いて呟いた私の言葉にレナーテ様はなぜかびっくりしたような顔をした。
「レオンハルト様はあなたを愛しているのに?なのにあなたは他の人にうつつを抜かすの?あなたを、レナーテ様を愛して.....レオンハルトは主人公を愛して、愛しているのに?愛しているから、愛していたから、私は、私はっ!私はっ、こんなに!!」
ーーーこんなに悩んで苦しいのに。
お腹の奥底から込み上げてくる何かを必死に抑えながら、でも言葉は抑えられなくて吐き出すように口から次々とこぼれでる。そして、その言葉によって現状を思い知らされて自分自身も傷ついていく。
涙が込み上げてきた視界は目の前のレナーテ様をぼんやりとしか写してくれない。
「.............っ!!」
体が熱い。
熱い、熱い!
黒くて気持ち悪い何かが私の体の奥から這い出そうと動き出そうとしている。
「ちょっと!!あなたまさか!?」
「アリシアお嬢様っ!?」
レナーテ様とエルケらしき人物が目の前で何か言葉を叫んでいる。
ぐらぐらとする意識の中で、誰かが「しっかりなさい!」と私に叫び続けている声が聞こえたような気がした。
◇◇
『こっちに来い。』
沈んだ意識の中、ふいに聞いたことがあるような声が私を呼んだ。
ーーーこっちってどこに?
『俺の元にだ。そのまま歩みに身を任せろ。
ずっとおまえがくるのを待っていた。』
ーーー私を?
『そうだ。俺といればいい。あの王子より俺を選べ。
そうすればおまえはもう苦しむことはない。』
ーーー私はレオンハルト様のことで苦しんでなんて......
『苦しかったんだろう?全て忘れさせてやる。』
頭に直接響く声がそう言うと、私の周りを覆っていた黒い霧がまるで人の手のように私の頬をなでた。
黒い霧は私をひと撫でするとまた私の周りを囲み出す。でも、なぜだか、怖くない。
そういえば......ここは何処なのだろう?
王宮の中?
エルケ達はどこに行ったのだろう?
さっきまですごく熱かった身体は今度は逆に寒いくらい冷たくなっている。
暗く冷たい廊下をぼんやりとした意識の中、ただただ自分の意思でもないのに勝手に足が動いて前へ前へと歩みを進める。
これは声の主の力のせいなのだろうか。
『早くこっちに来い。俺の元へ。』
再び聞こえた声の方向にまっすぐまっすぐ歩いていく。光の当たらない暗く冷たい廊下に私の足音だけが響いていた。
ーーーああ、行かなくちゃ。
前世での辛さも、今世での辛さも全部忘れられるなら、そっちに行って......いいよね?