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王子と私の婚約破棄戦争  作者: 翡翠 律
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第76話



「レオンには使わないわよ。」



 水色の髪の美女の言葉に一瞬耳を疑った。


「レナーテ様、あなたはレオンハルト様がお好きなのでは......?」


「もちろん大好きよ。」


 きっぱりと言い切る金色の瞳は真っ直ぐに私を見つめていてその言葉が本心であることがわかる。

 もしかして、レナーテ様がレオンハルト様に抱く「大好き」という気持ちは恋心というよりかは親族であり幼なじみであるという親愛の情に近いものなのかもしれない。


「小さな頃からレオンはかっこよかったわ。今では何故か身なりに気を使わなくなってしまったけど。まぁ、前髪をあげれば今でも綺麗な青の瞳が素敵だし。ああ!そうよ!『その繊細な指先で前髪をかき上げ、まるで氷のように透き通る美しい青い瞳を見つめていると、どちらからともなく2人の唇は......」


「お嬢様っ!!」


 うっとりと口元に手を当てレオンハルト様について語り出したレナーテ様が何故か物語口調に話し出した途端に、先程の1番背の高い侍女が彼女の話を遮るように叱責の声を飛ばした。


「あら?私ったらつい。」


「夢みがちなお言葉は自室でのみにしてください。」


 コホンと咳払いをする黒髪の侍女。

 何が何だかわからないが、とにかく先程のレナーテ様のセリフからして、どうも親族愛というよりかはやはり恋愛感情を殿下に抱いていらっしゃるということなのかしら。

 だったら何故、レオンハルト様に使うわけでもない恋愛のお守りを作ろうとしているの?


「残念ながら、これをレオンが借してくれる条件がレオンには使わないって条件なのよね。レオンが言うには真実の愛があるらしいから自分には使うなって。」


 そう言ってレナーテ様は、ちぇっと拗ねるような表情で残念そうな顔をする。そんな表情もさすが主人公はキラキラとしているなぁとぼんやりとした頭で思っていると、エルケが珍しく心配そうな顔で「お嬢様.....。」と呟き私の袖をすっと小さく引っ張った。その声で動作でハッと我に帰る。


「そうですか......。レオンハルト様にはレナーテ様への真実の愛が。」


 キリキリと心の奥のどこかが痛いけど、前世でこのゲームのストーリーを知っている私には覚悟ができていたから平気だ。

 レナーテ様は主人公。

 最終的にレオンハルト様と結ばれる主人公なんだ。

 そして私はレナーテ様に危害を加えレオンハルト様に婚約破棄されて最後は他国へ流され死んでしまう悪役令嬢。

 今はまだレオンハルト様にさほど嫌われてないからといって勘違いしそうになっていたけど。

 レオンハルト様は最後は彼女を選ぶのよ。

 だからこそ、はやいうちに、ゲームの強制力によって私がレナーテ様に何かをしてしまう前に、レオンハルト様から穏便に婚約破棄してもらい、私はバッドエンドを回避しなくてはならないの。

 レオンハルト様が彼女を愛することは確定事項。

 元よりわかっていたことよ。

 平気よ。

 うん、平気なはずだわ。


 そう心の中で自分に言い聞かせて、気持ちに蓋をする。レオンハルト様から離れて全てが終わればきっと私は幸せになれるはずなのだから。


「ですが、そうでしたら、その魔導書は一体何のためにお借りになるのですか?」


 レオンハルト様に使う必要がない恋愛成就の魔導書など、2人が思い合っているなら不必要なのでは?


「あら?もちろん他の殿方達に使うためよ?」


「は?」


「うっふふ。ほーんと、王都に早く来てよかったわ!

あのじぃさんばぁさん...じゃなかったお父様とお母様ったら私が心配とか言ってなかなか王都に住む許可をくれなかったのだけど。無理矢理駄々をこねて来て大正解っ。自然いっぱいの田舎もいいけどさー!田舎には素材が足りないのよねっ。」


「そ、素材??」


 急にまくしたてだしたレナーテ様の言葉遣いに、彼女の侍女意外、つまり私とエルケが唖然とする。


 ちょっ、ちょっと待って、彼女ってこんな人格だっけ?

 ゲームの主人公設定では、自然豊かなエルドナドル公爵領で育ったレナーテ様の心の美しさや水の妖精のような容姿、そして何より他の令嬢達にはない自ら未来を切り開こうとする強い意志に惹かれ、王子達はだんだんと彼女を愛するように......


「そう!素材よ!田舎にもまぁ、わりとイケメンもいるんだけどさ。高齢化進んでるからなかなか良い素材が見つけられなくて。

 やっぱり王都のほうが洗練された素材がゴロゴロいるから毎日が楽しいわ!

 こういった恋愛アイテムもどうせなら若いイケメン達に使いたくない?うくくくくっ。あーもう!早く使ってみたいわ。一体どうなるのかしらっ。

 恋に狂う貴族達、あぁ、身分違いの平民との恋もいいわねっ。」


 紅く染まった頬に両手をあてイヤイヤをするように大興奮するレナーテ様。

 背の高い侍女はもう何いってもダメだというような呆れた顔で明後日の方向を見てため息をついている。


「エルケ、エルドナドル公爵令嬢ってこんな人だったの?」


「知的で思慮深い美女でいらっしゃると、わたくしは聞いておりましたがどうやら違ったようですね。」


 小声で答えるエルケも彼女に持っていたイメージがかなり違ったのか訝しげな顔で眉を寄せている。

 首を捻りたくなる気持ちはわかるわ。

 私が前世で知っていたゲームのレナーテ様の設定にもあまりにも違いすぎる。

 イケメンの多い王都に行きたいがために両親に駄々をこねて...はある意味自ら未来をきり開いていく強い意志があるのかもしれないけど。目的が邪すぎない?設定では心が美しいはずでは......?


 いや、でもちょっと待って。

 レオンハルト様はレナーテ様を愛していると言うようなことをおっしゃっているのでしょう?

 なのに、他の方に恋愛成就のタリスマンを使うのはあまりにも不誠実なんじゃ......


「ちょっと待ってください。だったらレオンハルト様はどうなるんですかっ?」


「レオン?レオンはレオンで恋愛をしたら良いのではなくて?」


 ショックを受ける私の質問に、何を言ってるの?とでもいいたげな表情で近くの侍女から扇を受け取りそれを口元にあてて目を丸くしている。



「それは......、別の方たちのお付き合いとは別に?ということですか?」



「そうね。そうなるわね。」



 レナーテ様からの返答に、ドクン、と私の中で黒い何かが蠢いた気がした。


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