第五騎士団チョコレート・バトル!? ③
次回で『第五騎士団チョコレート・バトル!?』は最終回になります。3話完結は無理でしたσ(^_^;)。
◇
「というわけでございましてぇぇっ。只今より第一回っ、できれば第一回で終わらせていただきたい第五騎士団チョコレートバトルを開催したいと思いますぅ!!」
セレストブルーに濃厚の刺繍がなされたローブを白い騎士服の上に羽織った青年が、ひきつった笑顔で発した言葉が騎士団のだだっ広い食堂に響き渡る。
『第五騎士団』の一言に、濃紺の巡回用の制服を着た仕事帰りの第五騎士団メンバーがなんだ?なんだ?と集まってきた。
もちろんここは他所属の騎士団員も共用の場なので、第二騎士団や第三騎士団などの団員もコーヒーや茶を飲みながら周囲のテーブルで休憩をとっている。
「終わらせたいとはなんだ?来年もやるぞ?」
「えぇ。ぜひ来年も団員達を戦わせたいものです。何事も挑み続け高みを目指し精進することは大切ですよね、ハードルク団長」
「そのセリフは騎士団の訓練所の訓練で言ってくださああぁい!!ここ、食堂ですからっ!!これ、チョコレート作りですからああぁぁ......!!」
チャチャをいれる騎士団長と副騎士団長のあまりののほほんさに、くじけそうになる気持ちを奮い立たせ、両脚を大の字に開き踏ん張ると食堂のおばちゃ......いやお姉さんに借りたマイクを握りしめ、宝物庫事務員は決意を決めた。
僕は負けない。必ずやこのミッション(上司の娯楽ともいう)をやり遂げ、在るべき場所(宝物庫)までたどり着く!!
「それではー!!
参加選手を紹介しますっ!!
まずは......」
先程、ハードルクから渡された参加者リストの紙をカサリと広げた事務員は固まった。
「ちょっと、貴方どうかいたしまして?私、名前を書き間違えたりしていましたかしら?」
ふわりと花のような芳しい香りが舞い、鈴のような声音で話しかけてきたのは、第3王子の婚約者、つまり将来の王太子妃になられるはずの御仁である。
普通なら食堂になど来るはずのないお方がなぜここにいるっ??
なんでこんな高貴な方が参加者リストに名前書いてくるんですかあっ。
そもそも第五騎士団所属じゃないではないですかあぁぁ!!事務員は大泣きしそうになるも心を強く持ち、目の前の輝かしい金髪の天使のような貴人の名を述べた。
「い、いえ。
ま、まずは、今をときめく王宮の金の薔薇アリシア・フォン・ガーラント公爵令嬢様っ!!」
わああぁぁっと歓声が広がると思いきや、アリシア嬢の後にさらに食堂に入って来た人物に逆にその場が静けさとともに凍った。
いや、本当に空気が凍っている。
カツカツとブーツの音を響かせ、すらりとした肢体に黒衣を纏い優雅にマントをなびかせながら、こちらへと近づいてきたその御仁は...
「れ、レオンハルト殿下...っ。」
「アリシアがチョコレートを作るから来てくれと言うのでね。お邪魔させていただくよ。
ああ、しかし、まさか私以外の人間でアリシアの手作りチョコレートを食べようだなんてことを考えている者は.....いないよね?」
そう言うと同時にピキピキピキと床から壁までが殿下を中心にして凍っていった。
審査員は食べますよ、とは言えず、周囲の人間とともに事務員はカクカクとただ頷くしかない。
ーー危なかった。間違えてアリシア様のチョコレートを一口、いや一欠片でも口にしようものなら殿下に確実に氷漬粉砕されるところだった。
ぶるぶると震える手でマイクを握りしめ、次の参加者の名を読んでいく。
「続けては、第五騎士団の悪夢...爆風を呼ぶ白金の騎士であってフラナン伯爵家令嬢、シャルロッテ・フラナン殿!!
さらに続いてはっ
とにかく口説く誰でも口説く、国史学のエキスパートじゃなければただのチャラ男、フリートヘルム・ア・チェラード国史学研究所所長!!
そして最後にっ
ピンク髪にツインテール!ミニマムサイズのロリ系美少女!しかし喋ればまさかのオヤジ口調!!ニャン人形に全ての愛を捧げるベアトリクス・ロナポワレ子爵令嬢様!!
......あのぅ、第五騎士団のチョコレートバトルですよね?フラナン殿以外は第五騎士団ですらないのですが?」
「細かいことを気にすると大成しないぞ?」
あまりに有名な貴人ばかりの参加に意識が遠のいていく事務員に斜め上のアドバイスをする騎士団長。
「なかなかの要人が集まりましたねぇ。
それでは材料の説明は私から。皆さんあちらを見ていただけますか?」
副騎士団長のクーノが片手で示した先は厨房の調理台だ。そこには1番近くにあったチョコレート店で買い付けたチョコレートが種類別に山積みにされてあった。ミルクチョコ、ブラックチョコ、ホワイトチョコ、抹茶チョコに苺チョコ...ありとあらゆるチョコが置いてある。
「チョコレート作りの材料にはこちらのチョコレートをお使いください。そして厨房の調理器具もお好きにお使いください。調理師たちの許可は取ってあります。」
「おお、これはすごい!異国の地で流行っていると雑誌に書いてあった幻のルビーチョコまでありますぞっ!!」
クーノが指し示した先のチョコレートの山に、さっきまでテーブルの下にビクビクと隠れていたピンク髪の子爵令嬢ベアトリクスが目を輝かせて飛び出してきた。
「ビーア様、騎士達に人見知りをしてそんなところに隠れていらっしゃったのですね。」
あらまあと公爵令嬢アリシアが目を見開いたと同時に殿下の瓶底メガネがきらりーんと光り、アリシアを自分の背中側へと隠す。
フラナン伯爵令嬢も何かにハッとしたような表情をしてチョコレートに向かって走り出したベアトリクスの腕を掴んだ。
「ビーア様!ちょっと待ってください!何かがおかしい!!チョコレートの山が2つに増えている!!」
厨房の調理台のチョコレートの山の横の床に明らかにあやしいチョコレートがドロドロに溶けたような山がもう一つあった。
ソレはモゴモゴと蠢きながら、やたら濃厚なチョコレートの匂いをプシュープシューと吹き出していた。
「おやおや、あれは」
「チョコレートモンスターか。」
唐突に出現した魔物を前にしても全く動じない騎士団長と副騎士団長はさすがである。
ハードルクはふんと鼻を鳴らすと腰につけていたサーベルで宙を一斬りした。
ヒュン。シュポ。
「え、あれ?魔物はどこに......?」
急に目の前から跡形もなく消えたチョコレートモンスター。驚いた宝物庫事務員がマイクオンのまま呟いた言葉がスピーカーごしに食堂中に響き渡った。
「王都内近辺の魔物の管轄は第四騎士団だからな。空間を切り裂いてそっちに送っておいたぞ。」
「へ?送ってって、まさか...。」
「妙案です、ハードルク団長。管轄外のことをするとあとで報告書や手続きがややこしいですからね。
さあ、修復、修復。」
ニコニコと目を細くして上機嫌で軽く空間修復するサラファルガー副騎士団長。
「いや、ちょっと待ってください...。
送ったって、まさか。」
「第四騎士団団長室に送っておいだぞ?」
第四騎士団団長室に強制空間移動させられたチョコレートモンスターは、不幸にも送還地点が執務中の騎士団長の机に広げられた書類の上であった。
チョコレートのようなベトベトの体に乗られ、解読不能になった決裁済の書類達を無の表情で見つめる騎士団長。
その後の団長の怒りの魔力暴発はチョコレートモンスターどころか、団長室までぶっ壊したそうな。
「机上はやめてください、机上は......。」(第四騎士団 副団長談)
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