第71話
「ええっ!そんなの無理じゃないですかっ?」
「スコーンのクリームの塗り方や沢山あるスイーツを何から食べるかってことまで?」
「だとしたら、まったく同じような食べ順、食べ方なんて何通りあるの?」
私の言葉に周囲の使用人や近衛兵達がざわわっと動揺の声をあげた。
そんな中、1人だけ涼やかに余裕の顔をしている人物がいる。
「殿下......。」
「記録係が僕の近くにいたのはそのためだったんだね。」
席に座ったまま腕を組み、こちらを見るレオンハルト様の言葉には落ち着きがあり、むしろ口元には微笑さえ見えた。
「そうですわ。先程のレオンハルト様のアフタヌーンティーセットを食べた順、そしてスコーンのクリームの塗り方、紅茶の飲み方、全て殿下の左右にいる記録係がこと細やかに記録させていただきました。
そして、これです...。」
ブオォン......。
私が手を上にあげると、王宮使用人に持たしていた魔道具から光がほとばしり、天井近くに大きなスクリーン映像が映し出された。
「これは私が以前茶会でアフタヌーンティーを食していた様子を、兄のテオドールがなぜか撮影していたものです。兄様の書斎に本を借りに入った際に、なぜか本棚の隙間に隠すように置いてありました。」
そうなのよね。しかも永久保存版とかシールが張ってあったのよ。
テオ兄さま、妹がスイーツ頬張っている映像撮って何が楽しいのかしらね。
「チッ......あんの、シスコンめ。滅しろ。」
「え?今なんて?」
何か不穏な言葉と王子様ならぬ舌打ちが聞こえたような?
「ふふ。いや、何でもないよ?続けてアリシア。」
一瞬、空気が黒くなった気がしたけど気のせいだったのかしら?
「記録係が記した殿下の召し上がられ方とわたくしのこの映像に記録されている食べ方を確認していきたいと思います。
では、最初は、下段の皿のサンドイッチ。」
「いえ、お嬢様。まずは紅茶の茶葉選びからですよ。」
エルケとは逆の私の斜め後ろ横に控えていたパティシエが巨体をブヨんとはずませて、スクリーンを見上げる。
そこには、使用人が差し出したトレイにのせられたいくつかの茶缶のうちの1つを嬉しそうに指差している私が映っていた。
「アリシア様はこちらの茶葉がお気に入りですね。」と近くにいたパーティーの主催者らしき人物がにこやかに話している声も入っている。
一旦魔道具の映像を止めるとパティシエが茶缶を殿下の執務机に置いて、再び私の後ろへと下がった。
「お嬢様は最近はいつもこちらのブレンドティーをお選びになられますね。アッサムとセイロンのブレンドでまるで蜂蜜のようなまろやかさの紅茶です。」
「ええ。とても好きで毎日飲んでいるわ。
それでは、殿下はどんな茶葉をお選びになられたのか記録を確認いたしましょう。記録係、報告を。」
記録係のうちの1人が記録用紙を周囲に見せながらその記録を読み上げる。
「申し上げます。殿下は...同じ茶葉をお選びでした。」
「「「おおおお!!」」」
くっ。ひ、ひとつぐらいは同じということもあるかもしれませんわ。
「で、では、サンドイッチは?」
私の映像が再び映し出される。
映像の中の私はまずはキュウリの野菜サンドを食べ、ローストビーフサンドを食べている。そのあとに紅茶を飲む前に口直しに水を一口、口に含んだ様子が映し出された。同時に記録係がレオンハルト様のご様子も報告する。
「殿下はまず野菜サンドを召し上がられ、ローストビーフサンドを召し上がられたあと、水を飲まれました!!」
「「「おおおおお!!」」」
殿下がふふふと口角をあげる。
ま、まだまだよっ。
「じゃあ、中段プレート!スコーンは!?」
私はいつもスコーンを真ん中に分けてクロテッドクリームと苺ジャムを塗るのだけど、他の人がよくするように2つの味を最初から重ねるようなことはせず、塗る面の半分をクロテッドクリーム、さらに半分を苺ジャムにして、口の中に入った際に自然と二つの味が混ざるように食べるのが好きなのだ。
「お、お嬢様、スコーンの割り方の手つきも、クリームとジャムの塗り方も殿下はお嬢様とまったく同じでございますっ!!」
「「「おおおおおお!!!」」」
後書き
◇ブックマークや☆☆☆☆☆評価にて応援いただけたら嬉しいです。評価は下にスクロールして広告の下にあります。よろしくお願いします(^^)。