第67話
◇◇
「婚約破棄してください、殿下。」
ふんわりとしたピンクのシフォンドレスを身に纏い、マナーの授業で教えられた通りに広角をあげ最大限の微笑を私は自身の顔面に貼り付けた。
「うーん、何か違うわ。」
「そうですね。普通は身分が高い人物から破棄を申し出るはずなので、殿下に公爵令嬢であるアリシアお嬢様からにこやかに婚約破棄を申し込むのは間違えていますね。」
鏡の前でカーテシーをする私を見ながら、侍女のエルケがうんうんと頷く。
「そうじゃなくて。ただ婚約破棄をしたいと申し出ても、説得力がないのでは?と思ったのよ。」
「説得力、ですか?」
「そう!説得力......今までは説得力がなかったのだわ!だからいつまで経ってもレオンハルト様は婚約破棄に承知してくださらなかったのよ!」
「............。」
意気揚々と言い放った私をエルケは何故か線のように目を細くして見つめてくる。なぜだろう?
「アリシアお嬢様、馬車の準備が整いました。」
コンコンと自室の扉が叩かれ、使用人が出発の準備が出来たことを告げに来た。
「わかったわ。すぐに行きます。でも...」
私の次の言葉を予想して嫌そうな顔をするエルケに手を差し出した。
「王宮に出発する前に、紙とペンを用意してちょうだい。」
◇
「と言うわけで。」
「何が『と言うわけで』なんだい?僕のアリシア。」
王宮に到着し、すぐさま王太子の執務室に向かった私は、両手でバーンっと豪奢な両扉を開け婚約者殿にたち向かった。
隣で衛兵がワタワタしているような気もするが気にしないでおこう。
レオンハルト様は瓶底メガネの下の形の良い薄い唇を私の微笑の練習よりもはるかに綺麗に口角をあげて微笑んだ。
くっ。この余裕。さすが王族だわ。洗練された所作はいくら髪がボサボサであろうと、牛乳瓶のようなメガネに目元が隠されて不審者率3割り増しでいようともつい見惚れてしまいそうになる神々しさだ。
しかし、私はひるまないわよ。
「そう言えば、先日の件なんだが......」
「お静かに!!」
「ええっ?ア、アリシアどうし...」
「ただいまより、第368回 フローチャート式婚約相性診断を行いたいと思います。」
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