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王子と私の婚約破棄戦争  作者: 翡翠 律
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にゃっぴぃバッグ 

 本編が佳境に差し掛かりシリアスなシーンが多いので、休憩としてビーアちゃんの新年のストーリーをどうぞー。


「ぐっふっふっふ。年始からラッキーでありますぞ。」


 つい手元の紙を見てニヤついてしまう。

 それもそのはず、私の分厚い毛糸の手袋にしっかりと握られている紙には、『整理券 2 』の表記が。


 そうなのでありますぞ。

 私は、私はっ、


「限定数50個ハッピーバッグ、かつ先着3名様に麗しの推しがイベントで愛用したパティスリーカフェエプロンプレゼントおぉぉ!!整理券2番ゲットしたでありますぞおぉぉぉおお!!」


「あのぅ、お客様?店頭ではどうかお静かに。」


「は!?すまぬ!!つい推しのエプロンに興奮のあまり鼻血が、いや、違う!!断じてそんなやましいことは考えておらぬでありますぞ!!手に入った暁にはちょっとふんがふんがと匂いを嗅いでみたく...いや、違いますぞっ!!」


「......とりあえず静かにしていただけます?」


 客の列を管理していた店員の冷めた目が氷魔法より冷たそうなので私はとりあえず黙ることにした。

 店員に迷惑をかけない、これは推しを愛する者たちの暗黙のお約束ごとである。


 ハッピーバッグとは所謂、新年に売りだされる福袋のことでありましてな。

 ちなみに私が愛してやまないニャン人形のハッピーバッグはファンの間では『にゃっぴぃバッグ』と呼ばれ、このためだけに企画された商品がごそっと入っているファンが喉から手が出るほど欲しい福袋なのである。


 もちろん毎年このにゃっぴいバッグの売出し日、つまり新年最初の開店日はニャン人形の販売店は、この福袋を求めて長蛇の列ができる。

 私も毎年のように参戦しているが、にゃっぴいバッグは手に入れられても、先着プレゼントにまでは到達できなかったのだ。


 しかし、今年は私の推しである三毛猫ニャン人形の愛用......ごふっ(鼻血)、あ、愛用カフェエプロンのプレゼント。私はこのために前日は18時に就寝し、夜中の4時に馬車を走らせ店頭に並んだのだった。


 モコモコの水色のフード付きコートに薄茶色のブーツの街娘に変装した私は、整理券はもらったもののにゃっぴいバッグと先着プレゼントを手に入れるまでは落ち着かず、そのまま店先に並ぶことにした。


 整理券が配られた時刻は朝の7時。

 開店時間まであと3時間である。





「なんだそれは?」


 普段は感情を表に出さない相手の青い目が不機嫌そうに細められた。

 

「だーかーらぁ、にゃっぴいバッグだよ。にゃっぴいバッグ。年始に販売されるニャン人形の福袋のこと。」


 ニャン人形、と聞いてますます不機嫌そうになる銀髪の青年を彼の執務室のソファーにもたれながら見上げる。

 長い銀髪をしたこの長年の親友は、普段は感情を表に出さない。さすが王族、さすが第一王子と言えるのだが、その無感情な氷のような表情の青年が唯一感情を表す対象である人物がいるのだ。


「ビーアちゃん。毎年朝早くに並んで買ってるらしいよー?朝早くから街娘に変装して一人でさ。お兄さん心配だなぁ。まぁ、途中までは馬車で行くだろうけど。あんな朝早くにあんな可愛い子が1人で街に行くなんて。」


「......何が言いたい?チェラード。」


「いやぁ、心配だし僕も一緒に並んであげようかなぁって思ってさ。冬の朝、凍えるような空気、寒いと寄り添ってくる彼女の肩を温めてあげちゃおう......ばふっ??ちょっ、書類を顔に押し付けるのはひどくない?」


 押し付けてくる書類の束を顔から剥がして僕が抗議すると、相手は無視して執務机に向かい仕事を再開しだした。


「心配じゃないわけぇ?ビーアちゃん。」


「おまえがここで私と仕事をしていれば彼女にとっては安全だろう。」


「素直じゃないねぇ。大事ならもっと自分が守りに行ってあげたらいいのに。」


 その言葉にアルフォンスの羽根ペンを持つ手がぴたりと止まった。



「......街が壊滅せぬよう対魔法バリアをはったから行かぬとも大丈夫だ。」


「なにそれ?どこの心配をしてるわけ?」






 開店時間近くになり、整理券をもらった同志たちがわらわらと店に戻ってくる。


 整理券1番の猛者を並んでいる全員で尊敬の眼差しで称え、一人一人にゃっぴいバッグを受け取っていく。


「ああああああ!!早く!早く!家に帰って中を確認しなくてはっ!!」


 は!!しまった!!

 はやる気持ちについうっかり馬車を待たしていた場所を通り過ぎてしまったようでありますな......。


 御者との待ち合わせ場所に戻らなければ。

 そのときだった。知らない男2人が私に話しかけてきたのだ。

 彼らは20代前半ぐらいの男たちで長めの髪をかきあげながら私の顔を覗き込んできた。


「んー。なんかキミ可愛いーね。」

「お。ほんとじゃん。名前なんてーの?お茶しない?」


 人が苦手な私は思わず口元がひきつったが、ある考えが頭に浮かび気を引き締めた。


 ......こやつら、まさかナンパのふりしてこのにゃっぴいバッグを奪おうとしているのか??


「ん?どうしたの?そんな荷物をギュッと抱きしめたりしてさぁ。かーわいー。」


「こ......。」


「「こ?」」



「こぉんのふとどき者がああぁぁ!!(列に)並ばずして尊きを得ることなかれでありますぞおぉぉぉ!!!」



ちゅどーーーん!!



 ーーー元旦から私が放った魔法石はなぜか街はこわすことなく、ふとどきもの2名とその周辺の石畳みのみを空へと撃ち上げたのであった。


 さあ、早く推しのエプロンを開封しなくてはなりませんぞ。ぐふふふふ。




      ーー にゃっぴいバッグ 《完》ーー

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