何処かのお偉いさん
トントン
扉を叩く音だ。
「社長にご報告があります。」
「入れ。」
「失礼します。例の件で報告があります。」
「話せ。」
「結論から申し上げますと失敗したようです。此方報告書です。」
「続けろ。」
「報告書によりますと、奴の居ない間に家を占拠したまでは良かったのですが、その後取り返しに来た奴と交戦、皆殺しだそうです。詳しい事は報告書に。」
「まぁ、予定通りだな。此方からのメッセージも届いただろう。奴の方から接触があった場合は直ちに知らせるように。」
「ではその様に。ついでに何かご用件は御座いますか?」
「今は特に無い。また何か有ったら呼ぶ。」
「それでは失礼します。」
そう言うと部下は出ていき、社長と呼ばれた男は1人デスクで報告書を読み出した。
「黒コートねぇ。本名経歴諸々一切不明ながらどんな依頼もこなして来た凄腕の何でも屋。武装は安売りの拳銃一本、施術された様子も無し。にも関わらず一体どんなカラクリか忍者の様に分身して凄まじい戦闘力を持つ。部下の薬中検査でもすべきかねぇ。」
「あら、誰よりも黒コートにご執心な貴方が言うの?」
「来てたのか、盗み聞きとは悪趣味だ。」
「貴方の一人言が大きいだけじゃない。聞いたんじゃなくて聞こえたの。その癖昔っからよね、いい加減直したら?そのうち機密情報盗聴されそう。」
「余計なお世話だ。流石に機密情報を口に出したりしない。」
「ならいいけど、それは兎も角、黒コートって変じゃない?」
「何がだ。」
「だって今の時代、派手でぱっと見高そうな服着る奴なんていないでしょ。だから黒コート着てる奴なんてそこら中に居るじゃない。なんでこんな名前なのさ。」
「ああ、それはまさにその為だ。あいつは仕事柄恨みを沢山買ってるからな、誰か分からないくらいが丁度いいのさ。」
「ふーん。ならどうやって依頼するのさ。どっかに所属してるわけ?」
「いや、そうじゃ無い。依頼は勝手にあいつが売り込みに来るんだ。丁度よく問題を抱えた街や組織にふらりと立ち寄り、解決して行方をくらませる。それを繰り返しているから依頼は出来ない。」
「でも貴方はその黒コートを襲わせたのでしょ?じゃあ家はわかってるじゃない。」
「そうだな。実際何度もあいつに接触して話したさ。所であいつの武勇伝の1つに面白い話があってな。有る組織が黒コートに依頼したら断られた、そこで無理矢理連れてきた。したらどうだ、まるで初めから居なかったかの様に忽然と姿を消した。其れも捕まったその日にだ。当然逃げない様に厳重な警備の中だ。一部では忍者と呼ばれてるらしいがそれも納得だ。」
「それってただ単に警備の質の問題じゃなくて?」
「勿論其れも有るだろうが、問題はこの手の話が大量にあるんだ。黒コートの力が欲しい組織はいっぱい有るからな。その度にあいつは一瞬で居なくなる。一切知らない施設に連れてかれ、監視は勿論、カメラやその他諸々の探知に引っかからずに、姿を消すんだ。何ヶ月もかけて下調べした末の脱走はまだわかる、だが黒コートはその日のうちに出て行く事が大半だ。夜中に拉致すると一睡してから出てくらしいがな。」
「へぇ、不思議だねぇ。どうやってるんだろう。」
「さあな。だがだからこそ今回のプロジェクトにあいつの協力は不可欠だ。」
「そうね。今の話が本当なら確かに適任だわ。」
「その為に色々手回ししてるわけだが、どうにもうまくいかん。俺一人じゃ限界がある。」
「だから呼んだのね。でもなんで私なのさ、聴いてる限り、私に手伝える事なんて無さそうだけど?」
「いや、お前の所の部隊であいつを拉致して欲しい。」
「だからそんな事しても意味ないんでしょ?」
「話は最後まで聞け。いいか?俺はあいつの力を確信してるが、他はそうじゃ無い。だから試すのさ。実際にな。」
「なるほど。そうすれば貴方も出来る事が増えるわけね。」
「そう言う事だ。上手く行くかは分からんが、取り敢えず試せばいいさ。引き受けてくれるかな?」
「まぁ、いいでしょう。この話引き受けるわ。報酬はいつもの所へ。でも最後に聞かせて、なんで私に言う前に別の所へ依頼したの?まさか貴方私のこと信用してないの?」
「それこそまさかだ。あの依頼は定期的にやってるんだ、受けないと酷い目に遭うぞって言う警告だ。向こうから来てくれるのが1番楽だからな。正直あまり意味が有るとも思えんが、やらないよりマシだろう。これで10回目くらいだな。今までで1番いい所まで行ったみたいだ。家を占拠したらしい。」
「そう、それじゃあそろそろ行くわ。それじゃあね。」
「ああまたな。」
「さて、俺もやる事やらんとな。」