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何処かの誰か

取り敢えず始めます。

 眠い。


 朝からとても眠い。


 一昨日までは安全な寝床が、そうでは無くなってしまった。


 そのせいで昨日は寝て居ない。


 とは言え別段珍しくもない。


 ただこれから暫く、寝不足の日々が続くとなると憂鬱なだけだ。


 一刻も早く安全な寝床を探さなくては。


 眠い状態では何にも出来ん。


 取り敢えずは、アイツの所に邪魔するか。


 前に匿ってやった恩が有った筈だ。


 今日返して貰うか。




「悪いが少し邪魔するぜ。」


「勝ってな事言わないでよ!こっちだって生活カツカツなんだから。」


「別に飯は要らん。寝床を分けてくれればいい。」


「でも...この後出掛けるし。」


「あの時の恩を忘れたか?それとも返さないつもりか?」


「違うけど...。...わかったわ。一晩だけよ。その代わり私が居ない間、勝手な事したら分かってるんでしょうね!」


「済まねえな。寝たら直ぐ出て行くさ。じゃあ俺はもう寝るわ。明日起こしてくれや。」


「はいはい。でも飯は?食べなきゃ死ぬよ。」


「全部寝床だ。寝たら取って来る。」


「あっそう。じゃあ私出掛けるから。絶対に勝手な事するんじゃ無いわよ。」


「zzz」


「はぁ。寝るの早いわね。」


 そう言い女は出て行った。


「行ったか。一度言えば分かるのに。一眠りしたら、やる事やるか。」


 そう言い男は今度こそ寝た。

 ________________________________________


「まだ居たか。」


 俺が今いる場所は、元俺の寝床だ。


 なんで安全じゃなくなったかと言えば、出かけている間に、別の奴に占拠されたからだ。


 要は強盗だ。


 まったく、なんでよりにもよって、俺ん所に。


 大方何処かで買った恨みが原因だろうが。


 そうなるともうあの場所は使えないが、それはさておき、仕事道具は返してもらわないとな。


 さて行動開始だ。

 ___________________________________________


「ギャハハハ!うめえ飯じゃねえか。」


「今回の仕事は当たりだったな!」


「まったくだぜ。うまい飯と更に報酬まで貰えるんだぜ。こんなうまい仕事早々無いな!」


 ある筋からの依頼だった。


 内容は、ある家を強盗して目的の物を取ってこいと言う物だった。


 目的の物を以外は自由にしていいらしく、家に有った飯を食べている所だ。


 その中には、酒も有った。


 こんなに飯を溜め込むとは、中々裕福な家だった様だ。


 そのせいで恨まれたのか知らないが、何にせよ家主のお陰で俺たちはいい思いだ。


「酒なんて贅沢品、久々に飲んだぜ。」


「俺にも飲ませろよ。」


「ダメだ!リーダー特権だ!おめえ等は肉でも食ってろ!」


「まあ、肉もいい肉だし、いいけどよ。少しくらいいいだろ。」


「リーダーのケチ!バカ!ブス!」


「あぁ?誰だ調子こいた奴は!出てこい!」


 仲間と飲み騒いで居たその時、見張りの男が駆けてきた。


「リーダー!大変です。」


「どうした。」


「家主が戻って来ました。」


「はっ!今更戻って来ても、飯も酒も腹のなかだってのに。まあ、何にせよこっちは大人数だ。これはチャンスだ!確か家主を殺せば追加報酬貰えたはずだ。返り討ちにしてやろう。お前等武器を持て!」


「シャア!行くか!」


「追加報酬貰いに行くぞ!」


 彼らの中では、もう家主を殺して、報酬を貰う事しか頭にない様だ。


 とは言えそれは当然の事だ。


 彼らもその道のプロ、素人1人に今更手こずったりはしない。


「お前等か。悪いが返してもらうぞ。」


「よお、家主さん。なぁに、明日には帰るさ。まあ、家の中身はスッカラカンだろうがよ。」


「それは困るな。出来れば今すぐ出て行って欲しい所だ。」


「そうはいかねえ。こっちも仕事だ。強盗の依頼なんて珍しくもないが、見た限り色々恨みが有りそうじゃねえか。」


「それに関しては、自業自得だから構わないが、それはそれとして、依頼主を教えろ。」


「バカか、教えるわけねえだろ。この業界は信用が大事なのさ。」


「あぁ、よく知ってるとも。だが死ぬよりはマシだろ。」


「なんだぁ?脅しのつもりか?それにしちゃあ覇気がたらんなぁ。」


「そうだな。脅しは苦手だ。」


「ガハハ!そういやぁ、強盗とは別に、もう一つ依頼があってよう。あんたの殺害だとよ。」


「そいつは、怖いな。」


「やっちまえ。お前 ドンッ


「ぐっ!うぉ。」バタンッ!


「チッ。何しやがった、てめえ。」


「銃で撃っただけだ。今帰れば許してやろう。」


「バカか。護身用の玉が、偶然当たった位で図に乗るなよ!今度こそやっちまえ!」


 賊の目には警戒が見て取れた。


「ここで無闇に突っ込むほど馬鹿じゃねか。まぁ良い。警告はした。じゃあな。」

 ___________________________________________


「ふーん。それで取り返してきたと。」


「あぁ。だがもうあの寝床は安全じゃねえ。場所を移す。この街からも出て行く。」


「あっそう、じゃあお別れだね。次はどこ行くの?」


「さあな。適当に北にでも行くかね。」


「フロンティアには行かないの?あんた程の実力が有れば、どうとでもなるんじゃない?」


「かもな。だがフロンティアへのゲートは、DYSAMの管理下だ。俺には無理だな。」


「なるほどね、それじゃあ元気でね。」


「あゝ、また寄るさ。」

 ___________________________________________


 そうは言ったが、今の御時世、怪しい放浪人を『村』に入れる馬鹿はいない。


 では何処へ行くかと言えば、そこはやはり、怪しい放浪人に相応しい場所である。


 碌な場所ではない。


 と言っても、何処も彼処も金が無いものばかり。


 金を持つ者は、DYSAMの保護下だろう。


 つまり、『村』と言っても、比較的人間性を持った者達が、協力し合って居るにすぎず、生活の質は何処も大差無い。


 そもそも、戸籍も無い世の中、土地の売買なんて事をしても、意味が無い。


 故に、何処に住もうが誰も文句を言う筋合いはない。


 但し、その土地に住んでいる者との土地の奪い合いが発生する事は良くある。


 これもまた、法が無い世の中、殺して奪おうが、みかじめ料取ろうが勝手なのだ。


 その為、村は割と馬鹿に出来ない存在だ。


 中には組織だった武力を用いて、辺り一帯を仕切る『村』もある。


 あくまでも『村』だ。


 国ではなく、小さなコミュニティでしかない。


 この世界に国を名乗れる組織は1つだけで、そしてその組織は決して国を名乗ることはない。


 DYSAMである。


 その上で『国』を名乗ろうものなら、それはつまり、DYSAMと同等以上の力を持つと宣言するに等しく、当然DYSAMはその地位を揺るがす存在を放っては置かない。


 まず間違いなく消える事だろう。


 改めて言うが、誰が何処で寝ようが、誰一人として文句を言う権利は無い。


 しかし、争いにならないに越した事はない。


 故に、言うなれば「筋を通す」のが一般的である。

 ___________________________________________


 と言うわけで、俺は今困ってる。


「筋を通す」訳だが、それをしたくても出来ない事情がある。


 先日の襲撃の通り、俺は恨みを買っている。


 その為、出来るだけ何処に居るかの痕跡を、残したくない。


 理想はこっそり紛れ込む事だが、問題は住処だ。


 むしろ、潜入なんて簡単だ。


 いくら放浪人を入れないとは言え、買い物して宿で一泊位は出来る。


 しかし住処や商売は「筋を通す」必要がある。


 流石に住処を勝手に作るのは難しい。


 かと言って、路上生活もダメだ。


 今時ホームレスなんて珍しくもないが、案外あの人種は横の繋がりが強い。


 告発される可能性が高い。


 一番確実な方法は、ホームレスに賄賂を渡す方法だが、生活基盤の出来てない今、出費は抑えたい。


 何より、野宿は危ない。


 所謂、最終手段だ。


 取り敢えず、今日はもう遅い。


 宿でもとって、明日考える事にする。


 最早、説明がいるか分からないが、宿と言っても何にもない只の部屋である。


 部屋は狭いし、ベットは無く、壁も薄い。


 灯りは無く、真っ暗だ。


 飯は出ないし、もし出てきたら食い物か怪しむべきだ。


 とは言え、寝てる間に身ぐるみ剥がされるよりかはよっぽどマシである。


 壁が薄かろうが、床が硬かろうが、無いよりはマシである。


 ボロ宿に期待する方が、間違えだ。


 兎も角、俺は狭く暗い部屋で、持参した飯を食いながら、 明日からの事を考えた。



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