表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロイヤルリリー  作者: violet
6/23

雨の中で

ワンワン!

ゲンの足元をベルがじゃれている。

今のレッドフリートには、犬のベルさえ羨ましい存在だ。

ディーヌになでられるのだろう、微笑みかけられるのだろう。


「僕は末期だ」

会いたい、王太子とあかして権力で側におこうとさえ思ってしまう。

聖女を探さねばならないのに、ディーヌ以外はいらないと思っている。

もし、聖女がみつかれば、この気持ちは聖女にいくのか?

ディーヌから聖女に心移す自分はありえないとさえ思う。




「ベル」

ディーヌが呼んでもベルは出てこない。

ふー、とため息をついてティーカップを手にする。

ベルが、あの傭兵の一人になついているのは知っている。きっとそこに行っているのであろう。


あの男達というより、ディーヌに話しかけてきた男を避けようと部屋に閉じ籠っている。

「あー、気が滅入る」

ディーヌはケープを手に取ると部屋を出た。


「お嬢様どちらに?」

家令が声をかけてきたのを、歩みも止めずにディーヌが答える。

「祭りに行ってくるわ」

「お一人では危険です。誰か! 伴に行きなさい」

家令の言葉で侍女が駆けてきたが、すでにディーヌの姿はない。


見知った街とはいえ、祭りにはたくさんの人間が来ている。

そのための警備の増員だが、心配はつきない。



レッドフリートは街の露店の警備にいたが、空模様が悪くなったと思ったら、あっという間に小雨が降りだした。

露店は店をあわててしまい始め、客達は宿や家に引き返しだした。

露店の出ている通りは騒然としだした。レッドフリートは、スリやひったくりに注意をしながら街を歩いている。


ディーヌだとわかる娘が軒下で雨宿りしているのを見つけた。遠くにいるのにわかるのだ。

軒下にはディーヌと、兄妹だろうか、幼い子供が二人いる。


そっと近づくと、ディーヌが話しかけている。

「近くなのね? ではこれを被っていきなさい」

ディーヌは自分のケープを脱ぐと妹の方へ被せた。

「晴れてからでいいから、館に返しに来てね。

お母さんが待っているなら今のうちに行きなさい」


領主の娘というのに(おご)らず、子供に貸し与えている。

アイズが我らを誘ったのは、昨年の仕事が良い思い出だからだ。

その中には、伯爵令嬢ディーヌの優しい心遣いもあるのだろう、と察する。


子供達は小雨の中を走って去ると、ディーヌも屋敷に戻ろうとしているらしいが、ケープを脱いでしまい寒そうである。

「レディ、どうか私に警護させてください」

我慢できずに、レッドフリートは声をかけた。


「え?」

ディーヌは、驚いて顔をあげた。

えーー!

会いたくないと避けていた傭兵がそこにいるのを確認すると、ディーヌの表情が一瞬くもった。


レッドフリートはそれに気付いて、胸が痛くなる。

「私が側にいるのは不本意と思われるでしょうが、屋敷まで警護させてください。」

こうやってディーヌは独り歩きすることが多いのだろう。

普段は田舎で安全な街も、今は祭りでたくさんの人間が入り込んでいる。


レッドフリートは自分の外套を脱ぎ、ディーヌにかけた。

「少しでも雨を防げます。

私の物で申し訳ありませんが、着ていただけませんか」


ディーヌは思いがけず軽くて暖かいと感じた。

見かけは質素な外套だが、素材はかなりの高級品だろうと思える。

「あの?」


「レッドとお呼びください。」

嬉しそうにはにかんでレッドフリートがディーヌに言う。


ドキン! とディーヌの心臓がはねる。

レッドフリートは王太子だ。王妃に似て、美貌といえる顔だ。

「ありがとう」

小さな声でディーヌが言うと、レッドフリートから笑顔があふれる。


会話もなく、レッドフリートの警護でディーヌが歩く。

屋敷までの僅かな距離が、さらに短く感じるレッドフリートだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ