レッドフリート避けられる
「レッドおかしいぞ」
アイズがレッドフリートの肩をたたく。
「自分でも思うさ、変なんだ。
彼女の事が気になってしかたない。」
「まるで初恋だな」
ハハハとアイズが笑うのをレッドフリートは複雑な思いで聞いている。
初恋、まさにそうなのだろう。王太子として、簡単に女性に接触するわけにはいかなかった。聖女候補達には興味もわかなかった。
王太子という地位とは無関係の傭兵という自分の心が、解放されているというのは感じている。
一時の気の迷いかもしれないが、気になるのは事実なのだ。
「ディーヌって名前なんだな、可愛い名前だ」
名前を知れたことだけでも嬉しい。
「お前、相手は伯爵令嬢だぞ。」
アイズは笑っていうが、こいつは高位貴族の出かもしれない、と思っている。
仕草が平民のそれではないのだ。
「そうか、伯爵令嬢だな」
答えるレッドフリートは王太子だ、伯爵令嬢なら問題ない。
だが、20歳になれば竜になってしまう。ディーヌを置いていかねばならない。
もう、両想いの後まで想像がいっている。
ディーヌが聖女だったらいいのに、と思うのは、彼女が聖女ではないと思っているからだ。
ディーヌがあれほどこだわっている全裸が、この男達には問題にもなっていない。
傭兵として生活していると着替える場所があるわけでない。戦闘で血まみれ、汗まみれ、傷の治療等、人前であろうが服を脱ぐ場面は多々ある。
仕事の後、高揚を娼館で治めるときもある。見せ回る必要はないが、見られて困るという気持ちは少ない。
この時点で、ディーヌとレッドフリートには大きな隔たりがある。
デリカシーに欠ける、その一言につきる。
王太子として生きていた頃は、このようなことはなかった。周りに気を張り、弱点をさらさないように生活していた。
他人に肌を見せるなど、ありえないことだった。
祭りは盛大なものだ。
他国から行商が店を出し、豊作の願いとして街中が飾りつけられる。
国内だけでなく、他国にも輸出されるため、契約の場にもなる。
昨年も仕事をしたアイズは、他の傭兵達にも指示をだしている。
レッドフリートは祭りでディーヌと会えると期待していたが、姿を見ることもない。
そこでやっとおかしい、と考えはじめた。
避けられている。
アイズは、傭兵にも気さくに声をかける令嬢と言っていた。
今年は傭兵の前には出てこない。
王族として美貌の顔は、ここでも女性達に人気がある。
女性の方から寄ってくるのだ。
その顔も、ディーヌには役にたたない。それが、なんだか嬉しい。
絶対に自分の中身で振り向かせてみせると力を入れる。もちろん、この顔も好きになってもらわないと困るのだが。
「なあ、アイズ。協力してくれないか?」
「強力してやりたいが、俺にも令嬢の予定はわからん。
ただな、ゲンがベルと仲がいいぞ、令嬢は出て来ないがな。俺ら嫌われているぞ。」
やっぱりな、とため息をつく。
「俺達、裸だったからな。貴族の令嬢には刺激が強すぎたんだろう。」
それがわかっても、やり直す事はできない。
顔さえ見れない、胸が痛い。
嫌われている、という言葉が胸に突き刺さる。
「お前泣いているのか!」
アイズが飛び上がって、レッドフリートの肩をつかむ。
レッドフリート自身さえ、涙が流れていることに気が付かなかった。
「会いたいんだ。」
「どうにかして、令嬢が外出する時を探ってみるよ」
アイズは、侍女をてなずけるか、と思いながら答えた。
半年余りの付き合いだが、お互いに命を預ける相手と思っている。
なんとかしてやりたいじゃないか。
頭をかきながら、アイズは苦笑いするしかなかった。