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ロイヤルリリー  作者: violet
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出会いは衝撃すぎて

国の北部にあるエインズ伯爵領は、大規模な穀物農地経営で潤っていた。

伯爵の爵位ではあるが、公爵領にひけをとらない広大な領地である。

エインズ伯爵領の麦は、国の主食であり、輸出され外貨を稼いでいた。

その豊穣祭となると大規模なもので、他国からも来る程であったが、ごろつき達も集まってくる。

その警備に傭兵が雇われるのだ。




「うわ、まだ水が冷たいぞ。」

レッドフリート達は、エインズ伯爵領に入る峠で、山犬のような魔獣と対戦した。

大量の返り血を浴びた3人は、小川を見つけると身体を洗い始めた。

最近熱を持っている右腕を冷たい水で冷やしていたレッドフリートは、何かの気配に振り向いた。



ワンワン!

「ベル、待って!待って!」


ガササッ!

小川の横の薮から、犬と共にディーヌが飛び出してきた。


男3人とディーヌが対面した。

固まる、その言葉しかないのはディーヌだ。

3人の男達は全裸だったのだ。

隠すものも、(さえぎ)るものも、なにもない。


誰も動けない、目がそらせない。

ディーヌは目を開けて気絶しているのかもしれない。

人間、驚きすぎると、(まばた)きすることも声を出すこともできない。ディーヌがそれだ。

全裸の男を見ている恥女のようなディーヌ。


ワンワン!

空気を震わすベルと呼ばれる犬の鳴き声で、時間が動き出す。


微かな息をはいて、ディーヌが崩れ落ちる。

その距離をどうやって駆けつけたのか、レッドフリートが受け止めた。


運命の出会いなのに、残念すぎて百合の紋章の痛みも熱さも二人は感じる余裕はなかった。


ディーヌを抱き上げるレッドフリートは全裸である。

やり直すことのできない出会いであった。


「ベルというのか、かわいいな。」

ベルの頭をなでているのは、全裸のゲン。巨体のわりに小さいものが、好きらしい。

「ほら、服着ろよ。」

一番冷静なアイズが二人に服を投げる。


違う、可愛いのはこの娘だ。

レッドフリートは、ディーヌを抱き上げて固まっていた、服も着ずに。

全裸を見られて、どうしてそう思うのか不思議だが、百合の紋章が引き合ったのかもしれない。

当人達は、他に気をとられたせいで紋章が反応したことに気がついていない。


生まれてからずっと探していた娘がここにいるのに、気がつかない、残念を通り越して哀れである。


本能なのか、レッドフリートはディーヌが気になってしかたない。

だが、最初に全裸で現れた男を、田舎育ちの貴族の令嬢が好きになるかは、大きな疑問である。

ディーヌは、レッドフリートの腕に、自分と同じ紋章が見えたはずであるが、腕になど視線がいっているはずがない。

レッドフリートの試練が始まる。



服を着た3人は領主であるエインズ伯爵邸に、ディーヌとベルを運んだが、大変な騒動になってしまった。


しかも、当主のエインズ伯爵はレッドフリートの顔を知っている。

王太子と同じ顔だ。

髪は伸び、質素な服装だが、髪の色も瞳の色も王太子と同じ。だが、王太子だと確定できるほど親しいわけではない。

王宮に出仕した時や社交で、会うことがあるぐらいである。

レッドフリートが素知らぬ振りで傭兵として伯爵に接していると、伯爵の方も思い違いと認めたようだ。

王太子に似た他人、ということで納得したようだ。


「峠の魔獣は退治しておきました。その血を洗い流していたのですが、令嬢が近くにいたとは知らなかったのです」

まさか、全裸を見られたとは言えない。

「見知らぬ我々に驚かれたらしく、気を失われたのです。

誓って令嬢に不埒なことなどしておりません」


伯爵も王太子と同じ顔で言われると強くはでれない。

「祭りが終わっても、魔獣の駆逐を請け負ってもらえないだろうか?」

伯爵の言葉にレッドフリートは即座に返事する。

「お任せください」


アイズは遠い目をした。どうせ巻き込まれるだろう。報酬は高額を望めそうにないが、宿と食事は提供されるだろうと算段する。


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