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ロイヤルリリー  作者: violet
20/23

君が好きだ

「君が好きだ」

ディーヌの部屋まで送ったレッドフリートは、部屋に入ろうとするディーヌに告げた。


大きく見開いたディーヌの目が、聞こえたと言っている。

「殿下は」

ディーヌの声が震えている。

「簡単な言葉かもしれませんが、田舎娘は本気にしてしまいますわ」

「本気だ」

「送っていただき、ありがとうございました」

パタンと閉まる扉に、レッドフリートは溜息をつく。

目の前にいるのに、言葉にしても伝わらぬ想い。


信じてもらえない。


君は聖女なんだろ?

聖女でなくとも君がいい。


ディーヌが聖女でないならば、人であり続けるかぎり側にいたい。

竜になっても側にいたい。

竜になった自分はディーヌに危害を加えないだろうか?


ああ、だから空に登っていくのか。



エインズ伯爵の館は優雅とはほど遠い、砦と言ってもいいぐらいの強固な館だ。

街のはずれに広がる広大な庭。

奥は森になっており、その先は小川がある。

ディーヌとレッドフリートが初めて会った川だ。

川向うは峠につながり、山へと続いて行く。


昔は山から降りて来る魔獣を退治する拠点だったのだろう。





好き、と言われて眠れるはずもなく、ベッドに入ってもリプレイする言葉。

ディーヌはベッドの中で丸くなっていた。

「君が好きだ」

嬉しかった。きっと王子様が女性にかける言葉の一つなんだろう。


王太子様、本当なんだろうな。

王都から来た軍人が、殿下って呼ぶのだもの。




短いような長いような夜は過ぎていく。


エインズ伯爵邸では、寝ずの交替で兵士が館を警備し緊張状態が続いている。

幼獣のところはさらに厳重である。

今朝早く、王都の神殿から神官が5名到着した。

ケーデルリアが指示をだしている。幼体に強く術を重ねるためだ。


「ケーデルリア神官」

「殿下、ご紹介します。飛獣を見た時に神殿に依頼をしてあった人員が着きました」

ケーデルリアが端から名前を言うのを、レッドフリートは聞いていた。


「ケーデルリア、ここはどうなっているのですか?

飛獣に王太子、季節外れの百合の群生、魔力を含む湧水」

神官の一人がケーデルリアに確認している。

「偶然だ。

飛獣を見て山に入り、百合の群生を発見したところに王太子達が来た」

まるで集められたようだ。

レッドフリートも思っていた。

アイズ、ゲン、キリンジャー、これ程の剛腕は集めようとしても集まらない。そこに次期大神官と言われるケーデルリアだ。


魔力のある水が始まりなのか?

そこから飛獣が進化し、魔に惹かれるように我々が集まった?


「レッド」

王太子とわかっても態度の変わらないアイズとゲンがやってきた。

ケーデルリアは二人にも同じように神官たちを紹介していく。


「山に行って来た。

昨日、泉は塞いだはずだが、他の場所から湧水がでていた。」

ケーデルリアは神官達と山を確認に行ったらしい。

「そうか」

アイズは予想していたように答える。

「これは俺の予想なんだけど、水が始まりかな?

違うような気がする。」


「飛獣ではありませんが、300年程前の古書に大型の魔獣の記録があります」

王都から来た神官が、飛獣と聞いて調べました、と言う。


「300年前?

そこに百合の記録はあったか?」

レッドフリートの言葉に神官が頷く。


百合の紋章。


「百合が咲くんだ」

人に、地に。

百合の魔力を吸った地下水が湧水となるのかもしれない。


300年に一度咲く百合。


この地に聖女がいるから、この地に百合が咲く。

そんな事を考えるのは、レッドフリートだけではないようだ。


「エインズ伯爵令嬢」

ケーデルリアの言葉に皆が注目する。

「昨夜、治療の時にお会いしただけですが、ご令嬢からは何も感じませんでした」

何も感じない、の言葉にレッドフリートは期待しただけにガッカリしたが、神官達は反対のようだ。


「何も感じない?

人である限り、感情や生命力、いろいろなものを持っている。

ケーデルリアが感じようとしてできなかった、ということですか?」

「訓練した我々のような感じなのです。」

神官達は術を体得するために、過酷な訓練をしている。


「それも偶然ですか?」

いつの間にか側に来ていた、キリンジャーも神官の言葉を聞いていた。


人として一番のイレギュラーは、自分であることをレッドフリートは知っている。

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