レッドという傭兵
「レッドー!」
巨体を揺らしてゲンがレッドを呼ぶ。
レッドフリートは傭兵登録をすると、すぐに仕事を見つけた。
商人の護衛である。
並外れた武術と知能を持っているレッドフリートは、どこででも生きていけると自信があった。
だが、その自信はすぐに潰されることになった。
並外れた力がレッドフリートなら、世の中には武術だけとか、悪知恵だけなら人外というのが僅かながらいるのだ。
竜の力が覚醒していないレッドフリートは、人の力でしかない。
武術も知識も、戦争や執務としては高度なものであったが、実践的ではなかった。
商人の護衛で知り合ったのが、ゲンとアイズである。二人がレッドフリートを打ちのめしたのだ。
ゲンは力では敵うものはいない。アイズはスピードがダントツだ。
百合の紋章を身にもつレッドフリートは特別な王子として育てられた。剣も知識も、苦もなく身に付いた。
だが、街にでてみると、知らないことがいっぱいであった。
山岳地帯で積荷を狙った盗賊団に襲われた。
商人達を馬車に隠して、乱戦が始まった。
「レッド、右だ!」
ゲンの声にレッドフリートが馬車の右手に回る。
辺りのごろつきの集団にしては統制がとれている、ボスがいるのだろう。
ザッ、剣を握りしめたレッドフリートが5~6人の盗賊に斬り込んでいく。
傭兵に身をやつしていても王子である。自国を荒らす盗賊団は殲滅したい。
逃げる盗賊達を追いかけ、ボスはどれだと気を巡らす。
みつけた。
あきらかに動きが違うのが一人。
その時には駆けだして、剣を振り上げていた。
ザンッ!!
ボスを斬った瞬間に、盗賊が斬りかかってきた。
アイズが駆けつけ後ろから援護する。
「助かった、アイズ」
「よう、それが親玉か」
そうだ、と言わんばかりにレッドフリートが頷く。
腕のたつ3人は仕事が重なることが多く、半年も過ぎる頃にはつるむようになっていた。
「こっちも終わったぜ。金を貰ったら酒場に行くぞ」
ゲンが大股で歩いてきた。
よう、とアイズが声をかけている。
「レッド、お前もだぞ。その顔があると女が寄ってくるからな」
次の街まで隊商を守れば仕事は終わる。
血の臭いに魔獣達が集まる前に街へと向かう。
仕事を終え、酒場でアイズが話をきりだした。
「この後はエインズ伯爵領の祭りの警備に行かないか?
報酬はさほどではないが、祭りで旨いものが食える。」
「たまには、のんびりするのもいいかもな」
エインズ伯爵領、レッドフリートは伯爵の顔を思い出し、娘と息子がいるはずだが、娘は王宮の社交に出て来たことはないなと思う。たしか、領地で病気療養中の届けがあった。自分と同じだと苦笑いする。
「レッド、何しけた顔しているんだ。」
「ああ、考え事をしていて」
そうか、とそれ以上は詮索しないアイズ。
伯爵家の三男で、軍隊に入ったが飛び出したらしい。
この腕前なら昇級できたろうに、と言ったら笑っていた。
軍は腕前よりも、家柄、爵位持ちが優遇されるんだよ。上官の目は腐っているからな、それがアイズの答えだった。
自分が竜にならず王太子として残れば、軍を大改革してやる、とレッドフリートは思う。
ゲンは既に好みの女性を見つけたらしく、部屋にあがっていった。
レッドフリートとアイズが、大抵二人で飲みあかす。
アイズは、かなりの国を回ったらしく、諜報としても生きていけそうだ。
「エインズ伯爵家の令嬢は、僕ら傭兵にも気さくに声をかけてくれる」
アイズの言葉に違和感を思う。娘は病気ではないのか。
「病気療養で領地にいると聞いているが?」
「どこで聞いたかしらないが、普通だったぞ」
年頃の娘を社交にも出さずに領地においているのはなぜだ?
百合の痣があるから、隠しているのではないか?
いや、そんな簡単に見つかるはずもないだろう。
レッドフリートは可能性を、会う前から否定している。