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ロイヤルリリー  作者: violet
18/23

幼体

「私は、殿下が転地療養される話も聞かされておらず、ショックでした。

しかも、それさえ真実ではないという」

キリンジャーが、レッドフリートに言い募る。

「親友だと思っていたのは、私だけだと思い知らされました」


「違う、ハイデルは親友であり、忠心だ。

あの時は、私自身、追い詰められていた。王家の血、外交が迫っていた。あのタイミングしかなかったのだ」


医師は重傷者にかかりきりになっており、助手が軽傷者の治療にあたっていた。

すでに、治療を受けたレッドフリートとハイデルは、部屋の片隅で話し合っている。



レッドフリートが顔を上げて、周りを確認した。

ディーヌの姿が見えない。

他の部屋にいるのかもしれない。

伯爵の所に行ったのかもしれない。


だが、不安が募る。


ディーヌの気配などわからない、どこにいるかなどわからない。

それがこんなに不安にする。

「ディーヌ」


キリンジャーはレッドフリートの様子で察したのだろう。

「念のために、外を見に行きましょう。

調査のために、弱らせて眠らせたとはいえ、幼体を運んできていますから」

兵士が交代で見張っているが、3匹の成体が奪いに来るかもしれない。


今朝のうちに、王太子の名で増援を依頼してあるが、今の手勢では成体3匹は無理だ。

1匹でも、全員が負傷するほどの苦戦だったのだ。

幼体を生かして連れ帰ることにした為に、余計に戦力がいったせいでもある。

ケーデルリアの力で眠らせられることができるまで、弱らす必要があった。


魔獣、それは魔力を持つ獣。

飛獣は未知のことばかりである。他にもいるのか。

飛ぶということだけでも大きな畏怖となる。

人間を襲うのかという疑問は、肉食という点で疑いの余地はないだろう。

鳴き声で人を錯乱させることは、実証されている。他にも魔力があるのか。




「ご令嬢、ここは危険です。どうぞ屋敷にお戻りください」

警備の兵士の声が聞こえる。


「でも、あの子、血だらけで。手当てをしないと」

響いてくるのは、ディーヌの声だ。


「ディーヌ」

レッドフリートは、できるだけディーヌを驚かさないように後ろから声をかけた。

ディーヌが驚いて大声をあげたら、飛獣の幼体が目を覚ますかもしれない。


「レッド、どうしてここに?」

ディーヌだけでなく侍女もいるようだ。

「それは、私が聞きたい。何故にこんなところに」

ここは、幼体を隠す目的もあって、エインズ伯爵邸の庭でも奥深く木々に囲まれている。


「そうなの、変なの。何だか気になって来てしまったの」

ディーヌが不思議よね、と侍女と顔を見合わせる。

ここにいる兵士達やレッドフリート達の中で、ディーヌと侍女だけが幼体に危害をくわえることはない。


「ご令嬢、それはこの魔獣の能力かもしれない。人を惑わせ助けてもらおうとしているのかもしれない」

レッドフリートが考えていた事を、躊躇いもなく口に出すキリンジャー。

「この子が、私を騙そうとしている、と言うのですか?

こんなに傷ついて、血まみれなら当然だわ」

人間程の大きさがある魔獣だが、子供独特の雰囲気でディーヌを惹きこもうとしているのかもしれない。寝ていても生きるために、魔力をだしているのかもしれない。


レッドフリート達は、この幼体にも苦戦した。幼くとも魔獣なのだ。

ディーヌを近寄らせたくない。


「この魔獣は王都に連れ帰り、研究する。大人しいようなら成長を見守りたい」

レッドフリートの言葉にディーヌの顔がひきつる。

「研究、それはどのような?」

震えるディーヌの声。怖ろしい想像をしているとわかる。

「ディーヌ」


差し出すレッドフリートの手をディーヌが振り払う。

「この子には、生きることも出来ないの?」

ディーヌが胸を押さえて(かが)みこんだ。

レッドフリートも腕の紋章が熱く痛い。


もう間違いない。

「ディーヌ、君には百合の痣がある」

レッドフリートが言いきって、ディーヌを抱き起こす。

ディーヌに触れる手が、指が熱い。


「殿下」

キリンジャーが侍女を連れて、レッドフリートの横に来た。


「殿下?」

ディーヌの瞳がレッドフリートを映す。

「レッドは傭兵よね? 殿下ってどういうこと?」

自分は傭兵のレッドを想ってはいけないと思っていた。それでも、自分が貴族を捨てればと考えることもあった。

だが、殿下と呼ばれるような人物なら、尚更想ってはいけない。絶対に叶わない想い。

涙がこぼれ落ちる。


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