王太子の身分
医師の治療の間、侍女達は食事を用意していた。
エインズ伯爵は、夫人を部屋に送っていって戻ってきていないので、ディーヌが指示をだしている。
もう、あれは王妃として問題ないのではないか。
儚げに見えるディーヌだが、有事にはしっかりしている。
王都で茶会にあけくれる貴族の令嬢と、自然の中で様々なトラブルを体験して育ったディーヌは違う。
レッドフリートはディーヌが眩しくてしかたない。
配られた食事を取りながら、キリンジャーはレッドフリートを見ていた。
じっとディーヌを見つめるレッドフリート。さすがにディーヌも気が付いているらしく、チラチラとレッドフリートを見ている。
側にいるこちらが恥ずかしくなるぐらいである。
「殿下」
「ああ、悪いな。待たせた」
レッドフリートはキリンジャーの隣に座ると、皿に盛られた骨付き肉に手を伸ばした。
「あの飛獣は、騎獣として使えませんか?」
「私も最初は考えた。卵を見つけた時に調教できないかと。」
レッドフリートは首を振りながら、キリンジャーに答える。
「だが、一瞬で諦めたよ。
肉食で生態もわからない。リスクが大きすぎる」
遠征で常に食料が手にはいるとは限らない。
「何故にここに?」
それを尋ねたかったのだろう、誰にも聞かれないように声を小さくしてキリンジャーが問う。
「聖女を探して国をまわるためだ」
キリンジャーは、レッドフリートの話を聞いている。
「王家は特別な血をひいている。
それに聖女は不可欠な存在だ。
王家の神殿にいるのは聖女ではない」
「特別な血?」
「時が来るまで話すことはできない。
その時を来させないために、聖女が必要だ」
レッドフリートはディーヌを見つめている。
「あの伯爵令嬢が聖女なのですか?」
キリンジャーもディーヌを見る。重傷者は別室に移したので、軽傷者に薬を配っているようだ。
「そうであって欲しいと思っている」
「あのドレスでは、百合の痣があるかわかりませんね。
首もとまで襟がある」
そう言いながら、キリンジャーが立ち上がろうとする。
「痣があるか、聞いてきます」
驚いてレッドフリートがキリンジャーを押さえ付けた。
「聞いて逃げられたらどうする!
痣を公表する気があるなら、神殿に報告なりしているはずだ」
「たしかに」
キリンジャーが座り直す。
そこにアイズとゲンがきた。
昼間の戦闘で、お互いの腕がわかると、第2部隊と傭兵達は信頼に近いものができた。
成体の飛獣を討伐するには、全員で協力せねばならなかった。
「よう、レッド。そろそろ俺らにも事情を教えてくれよ、殿下?」
アイズがキリンジャーを指さす。
キリンジャーがレッドフリートを、殿下と呼ぶのを聞いていたらしい。
「黙っていて悪かった。
私は王太子レッドフリートである」
殿下と呼ばれるには、王族であると思っていたが、王太子とは思いもしなかった。
「は?」
間抜けな声がでた。
アイズはレッドフリートのキズを見た。
傭兵として、自分達と同じ前線で戦った仲間だ。
こうやってケガをしている。
後ろの安全な圏内にいて、指示を出しているだけの王族ではない。
アイズは、ニッと笑って親指を立てた。
「俺は自分で見たものを信じるさ」
一緒に戦ってきた信頼がある。