聖なる泉
山奥深く、小さな泉が涌き出ていた。
「これが異常な進化の原因ではないでしょうか?」
ケーデルリアが、手のひらに水をすくった。
「今、私は殿下から微妙ですが魔力を感じてます。
王家は魔力があるのでしょう」
その通りだ。王家は代々、竜の血を受け継いでいる。
「この水にも魔力を感じるのです。
本当に微々たるものですが、飲むのを続けていれば影響がでるかもしれません。
飛獣など、今まで聞いたことも見たこともありませんでした。」
ケーデルリアが皆に説明する。
魔力のある自分が飲めば、自分も変化するのか?
レッドフリートは、竜になる、という伝えを思い出す。
「つまりは、この水があの飛獣を作るほどの魔力があるということか。
わかった、すぐに塞ごう」
泉に歩きだすのはキリンジャーだ。
レッドフリートが、王宮を出る時にキリンジャーに言わなかったのは、キリンジャーの性格を心配してのことだ。
行動力も、剣技も抜群だが、調子者なのだ。
頭の回転も早い、だが行動はもっと早いのだ。
すでに泉に浸かっているが、深いところでも膝までぐらいしかないらしい。
水が涌き出ている所を探しだしたようで、水辺から大きな石を持ってきて塞ぎ始めた。
ケーデルリアの言葉は可能性に過ぎない。
それを確認するよりも、怪しいなら潰してしまおう、ということらしい。
この泉はこの地域の水源かもしれない、植物形態が変わるかもしれない。
「ハイデル、泉はもういい。塞いでも、地盤の弱い他の所から染み出すかもしれない。
まずは飛獣のコロニーだ」
レッドフリートの言葉に、了解したとばかりにキリンジャーが泉からあがって来る。
「隊長、泉の中に魔獣はいませんでしたか?」
隊員が、魔獣の姿がないと言う。
「どうやら、飛獣を怖れて、この辺りは魔獣や獣は少ないみたいだ」
答えたのはゲンだ。
飛獣のコロニーは泉からすぐに着いた。
数匹の幼体だろう飛獣と、たくさんの卵。
1匹の成体の飛獣がいた。
足元にはエサだろう、たくさんの魔獣の死骸が転がっている。
幼体でも、人間の大人ぐらいの大きさがある。
「急がないといけませんね」
ショックを受けているエインズ伯爵の代わりに、ケーデルリアが言う。
「飛んでいった3匹が戻って来る前に、出来るだけ減らした方がいいな」
「だな」
レッドフリートとアイズが、他にも隠れていないかと確認している間に、キリンジャーは部隊を率いて成体に挑みにいった。
「あいつ」
アイズはキリンジャーを見ながら言葉が続かない。
飛獣は、キリンジャーの攻撃を受け、興奮して飛び上がった。
「腕はいいんだ」
レッドフリートが片眉をあげて、擁護するように言う。
その場にいた全員がコロニーに突入したが、成体は簡単にはいかない。飛んで頭上から攻撃してくるのだ。
レッドフリート、キリンジャーで成体を攻撃している間に、伯爵が卵を叩き潰してまわった。
幼体はアイズとゲンと隊員が斬りつけている。成体の固い身体に比べ、まだ皮膚が柔らかいみたいで深い傷になっていく。
「ギャアア」
耳をつんざくような鳴き声をあげて、成体がキリンジャーに向かって来る。
一瞬、動きが止まったキリンジャーだが、爪にかすられながらも避ける。
「これが、こいつらの魔力か。頭が痛い」
かすられた腕からは血が流れている。
「耳から頭が痺れているような感じだ」
ゲンも耳を押さえている。
「これを何匹も一緒にやられると、やばいな」
ケーデルリアが呪文を唱えると、一瞬で錯乱が治まった。
「すごいな、助かったよ」
レッドフリートがケーデルリアに声をかけるが、体力を消費したのだろう、ケーデルリアは肩で息をしながら声も出せず、手をあげた。
レッドフリートが縄を投げると、うまく魔獣の足にからまり、落ちて来た。
「これで少しの間は飛べまい」
今だと斬り込んで行くレッドフリートとキリンジャーに魔獣が鳴き声をあげる。
耳と頭の痛みに耐えながら、一撃一撃と剣を振り下ろす。