飛獣
第2部隊が山脈に向かう途中で、空に飛獣が現れた。
それも3体である。
初めて飛獣を見るキリンジャーや隊員は、空を見上げ馬の足を止めた。
「あれが。あの大きさで空を飛ぶのか」
キリンジャーの口から驚きの声があがる。
「そして、肉食だ。
今なら個体数も多くないはずだ」
偵察から戻ってきたアイズが声をかけてきた。
ゲンとケーデルリア神官も一緒である。
何度もレッドフリートの随伴で神殿に行っているハイデルは、神官を知っている。
「ケーデルリア神官、貴方まで。ここは、一体なんなのだ」
困惑するハイデルに答えはない。一団は馬を駆け、山を目指した。
「この奥深くで、我らは飛獣のコロニーを発見したんだ。」
ゲンとアイズは早朝から山に戻り、そこでケーデルリアと合流したらしい。
奥深くに進むにつれ、ケーデルリアの様子がおかしい。
「神官殿の不調になる方向に進んで、みつけたのだ」
アイズが、コロニーを見つけた時の様子を話す。
「地に魔力が濃くなっていると言うのだ。俺には何も感じなかったが」
「たしかに」
答えたのはレッドフリートだ。
「身体が熱くなってくる」
「ねぇ、カッコイイ方だったわね。
お父様のお客様かしら?」
エインズ伯爵邸では、ディーヌが侍女に聞いていた。
「王都の第2部隊と聞いております」
侍女の言葉で、ディーヌは祭りの時にレッドフリートが言ったのを思い出した。
レッドフリートが父の伯爵に第2部隊の要請を言っていた。
「はい、お嬢様」
侍女がお茶を渡しながら言う。
「軍服がステキでしたわ」
「でしょ」
同感、とばかりにディーヌが頷く。
「あの方がキリンジャー隊長なのかしら?
きっとそうよね」
「軍の隊長は高位貴族の子弟が多いと聞いてます。
お嬢様、チャンスですわ」
「そうね」
と答えるディーヌに覇気はない。
素敵な男性とは思うけど、気になる男性がいる。
「お嬢様、レッド様は魅力的ですが、傭兵です」
侍女にはディーヌの想いがわかっているらしい。
ディーヌがそっと目をふせる。
「わかっています」
でも、ドンドン気持ちが大きくなっていく。
別の男性をみることで、諦めようとしているのかもしれない、自分で思う。
なぜ、こんなに気になるのだろう。
あんな初対面だったから、側にいくまいと思っていたのに。
傷は大丈夫だろうか?
昨夜はまだ出血していたのに、また山に向かった。
カップをソーサーに置くと、立ちあがり窓の方に行く。
山の方を見ても、何か変化があるわけでもない。
そこに、皆が行っている。レッドフリートもキリンジャーもエインズ伯爵も。
その目に、空を飛ぶ飛獣が映った。
ディーヌだけでなく、街でも目撃されているだろう。
ディーヌは、レッドフリートの外套を羽織ると、部屋の外に飛び出した。
「街のみんなが怯えているはず。
屋敷に残っている私兵隊は、私に付いてきて」
田舎育ちのディーヌは馬に乗れる。
私兵隊達と混乱する街に向かい、人々の誘導をするつもりでいる。飛獣が遠くに飛んで行ったようだが、どこに行ったかはわからない。
レッドフリートもディーヌも、それぞれが出来る事をするだけだ。
「お父様が出かけている間は、私が指示します。」
後を継ぐ弟は王都の学校にいっている。
王都に憧れはあるが、ディーヌは育った領地への思いが深い。
飛獣が飛来するのではと、恐怖はあるが、自分しかいないのだ。
「数人で飛獣が飛んで行った方向を調査お願い。
残りで領都の警備にあたります」
ディーヌが領都の中心地帯で、私兵隊の中から、調査に向かう人を呼ぶ。
「決して無理はしないこと。
わからなかったら、それでいいわ」
ディーヌがそう言うと、選ばれた私兵隊が農地地帯の方へ駆けた。