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ロイヤルリリー  作者: violet
12/23

刺青

「ありがとう」

ディーヌは、侍女から新しい包帯と薬を受け取った。


サロンのソファーにレッドフリートがすわり、ディーヌが包帯をほどいた。包帯を巻き取る手が、レッドフリートに触りそうで震える。


もちろん、レッドフリートとディーヌの二人ではない。室内には侍女が控えている。


あ・・

右腕には、百合の紋章。

ディーヌの目が釘付けになる。


「ああ、聖女様にあやかってね」

レッドフリートは刺青と思わせるように誘導する。


「聖女様には百合の痣があるとお聞きしています。

このように、百合と周りに文様があるのですか?」

レッドフリートの百合は、百合の花の周りを囲むように文字の様な模様。それは、ディーヌの胸の痣と同じ。


「いや、聖女様には百合だけだ」

そっと紋章をディーヌがなぞる。

「熱い」

口から出たのはディーヌだ。

レッドフリートも痛いぐらいに紋章のところが熱をもっている。

ディーヌに触られたからだ、ますますディーヌが好きだ、という思いがこみあげる。



ディーヌは、自分の胸にあるのが刺青にされるぐらい、ありふれた模様かと安堵していた。

ただ、レッドフリートに触れる指先が熱い。

自分は貴族の娘。傭兵のレッドフリートを好きになってはいけない、といいきかす。


それに、この人は恵まれた容姿で、祭りの巫女のように女性が寄ってくるんだった。

こんな人、好きになったら苦労するだけ。

自分は伯爵の娘とはいえ、王都の美女には及ばないだろう。


好かれているような気がするが、遊ばれているだけかもしれない。

まるで、この紋章が二人のお揃いのように思ってしまう。

もし、自分に同じ紋章のような痣があると、レッドフリートが知ったら同じようにお揃いだと思ってくれるだろうか。

不安が大きくなっていく。

教えたいという思いと、知られたくないという思い。


「ディーヌはいつも首元までのドレスを着ているな」

まるで、ディーヌの考えを読んだかのようにレッドフリートが言う。

「両親の教えで。

嫁入りまでは、肌を出さないように言われてます」

いつも同じことを言っているので、躊躇なく言葉がでる。

襟ぐりの深いドレスだと、痣が見えてしまうのだ。


そうしている間に薬を塗り、新しい包帯を巻きなおした。

魔獣に爪を立てられた傷は、血も止まったようで包帯にはもう(にじ)んで来ない。


「ありがとう。

今さらだが、ディーヌと呼んでも?」

傭兵と伯爵令嬢だ、お嬢様と呼ぶべきなのだろう。


「はい、レッド様」

コクンとディーヌが(うなず)く。


「侍女殿、もう遅い。

ディーヌを部屋に送るので同行してくれ。

この時間に女性の部屋に、私一人で行くべきではないので」

そう言って、レッドフリートはディーヌの手を取りエスコートする。

それは傭兵の仕草ではなく、貴族子息のようであった。



「おやすみ」

「おやすみなさいませ、レッド様」

レッドフリートはディーヌと侍女が部屋に入るのを確認して、その場をあとにした。




会えないと思っていたディーヌに会えて、レッドフリートは力がみなぎってくるのを感じた。

ディーヌが触れた紋章が熱い。


「聖女が近くにいる」


ケーデルリアの言葉が、レッドフリートの頭に甦る。

ディーヌは聖女ではないのか。

まるで胸元を隠すようなドレス。

熱くなる紋章。

もし、ディーヌが聖女なら、離れないですむ。

離れたくないから、聖女だと思いたいのか、と自問する。

それでも、ディーヌが聖女である、と思う。

百合の痣、それが確認できればと願う。


百合の痣どころか、同じ紋章があるのに。



ドレスを贈るのが名案と思ったが、胸元の開いたドレス、受け取ってくれるだろうか。


初対面で裸体を見られて、ずいぶん嫌われた。

やっと接してくれるようになったのに、下心を見透かしたようなドレスで、また嫌われたらと考えてしまう。


ケーデルリアが、気をよむと言っていた。

彼ならディーヌが聖女かわかるのではないか。

レッドフリートは、自室として与えられた部屋に戻ると手紙を書き始めた。

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