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三回表2 ソフトボール大会激闘です!

(大丈夫……、ボールは良く見てた。あの程度のスピードならブランクがあっても打てる!)


 わたしはクラスメイトの気持ちを一身に背負い左打席に立った。


 右投左打、それがわたしのセールスポイントだった。パワーはないけど、小柄な体型とスピードを使って相手を錯乱するのがわたしのプレースタイル。まさに日本野球、スモールベースボールと言えばよいだろう。でも、この場面、クラスの状況。そんな小賢しいプレーは無意味だ。


 幸い、相手もバッテリー以外は素人。強い打球を外野まで飛ばせばランニングホームランだって十分にあり得る。


「広瀬さん! おもいっきり! B組の維持見せてやれ!」

「るいちゃーん! 頼んだけんね!」


 クラスメイトの声援にも熱がはいる。


(初球はストレートでくるはず……。それを狙う!)


 C組のピッチャーがモーションに入る。

 

 しかし、ここで異変に気付いた。


(――えっ? ウソ? 近いっ!!)


「ストライークッ!」


 審判の声が響く。その声の後、周りからどよめきの声も上がる。


「嘘でしょ……」

「これは無理だよ……」

「広瀬さん、可哀想……」


 反応することが出来なかった。ソフトボールの体感速度は野球と比べて一・五倍と言われている。つまり彼女の投げる球が一○○キロなら体感速度は一五○キロだ。さらに彼女は跳んだことにより、マウンドからの距離を縮めて投げてきていた。


 普通の女子高生が投げるような球じゃない。この速度は現時点でも高校生の中ではトップクラスではないだろうか。しかもそれを高一で投げているのだから、センスも去ることながら想像もできないくらいの努力があったのだろう。


(あんな投げ方見たことないよ……、やっぱり本気じゃなかったんだ……)


 一方、わたしは努力というよりもただ楽しんで野球をやってきただけだった。しかも、その楽しかったはずの野球も嫌になった。わたしは逃げるように野球を辞めたのだ。そんなわたしが、こんな本気の球を打てるわけない。


「タイムお願いしますっす」


 すると突然C組のキャッチャーがタイムをかけた。キャッチャーはピッチャーの元に駆け寄ると再び何かを話し合っているようだ。


(助かった弱気になってた……。今のうちに気持ちを入れ換えないと。わたしはクラスメイトのためにここに立っているんだ。弱気になるな! わたしは打てる! 少し速いだけの球じゃんか!)


 タイムが終わりキャッチャーが戻ってくる。


 次はボール球で様子を見るのか? それとも全く反応できなかったからストライクを取りにくるのか? とにかくボールを良く見て、食らいついていこう。そう思いバット短めに持ち構える。


 先ほど同様、力のあるフォームでピッチャーの腕が回る。そして投じられた二球目、ストライクゾーンから大きく外れた球がわたし向かって飛んできた。

 

「危ない! 避けて!」


(――これはっ! ビーンボールッ!)


 とっさに体を後ろに回転させ、ボールを避ける。


「ボール!」

 

 審判のコールが響く。


 危なかった。わたしだったから良かったものの、他のクラスメイトなら絶対に当たってた。


 何やら歓声のような声が聞こえるが、今のわたしにそんな余裕はない。


(それにしても今、あのピッチャー叫んだ? ってことは、わざとじゃない? よね? きっとそうだ。きっとギアを入れ換えたから手元が狂っただけだだよね)


 どちらにしても結果は的には挑発行為。でもここで臆する訳にはいかない。


 あんなボールを投げた後だ。並みの神経なら次は置きにくるかもしれない。ならわたしはそれを逃さない。


 続く三球目、ボールはベース一つ分外に外れる。


 わたしはその球にピクリと反応した。


 幸いにもバットは回っていないが、頭に血がのぼっていたせいで打ちに気になっていた。これでカウントはワンストライク、ツーボール。バッティングカウントだ。


 バッティングカウントはボールが先行している状態、つまり投手より打者が有利なときに使う言葉だ。このとき、投手が比較的甘いストライクを投げる確率が高くなる。よって打者はそれに狙い球をしぼって、おもいきりバットを振ることが出来るのだ。


(ここは甘い球が来たら迷わず振るとこ、でもその前に……)


 わたしは冷静になるために、一度バッターボックスを外れると屈伸をした。


 その流れで二回素振りをする。後は血抜きのために大きく深呼吸。


 再びバッターボックスに戻る。構えてみても、さっきまでとは比べ物にならないくらい肩の力が抜けている。


(よし! いける!)


 わたしは相手ピッチャーを睨み付けるように視線を送った。

 

 相手ピッチャーはキャッチャーのサインを見てか、コクリと一回うなずくと投球動作に移る。


 投じられた四球目、先ほどよりもスピードはないように感じる。打ちごろのスピードではあるが、少し高いか? 

 

(――でも、甘い!!)


 わたしの得意なコースはどちかと言えば低めだ。でもこの球は見逃す球じゃない!

 

 わたしがバットを振り抜ぬこうとしたときだった。

 

 胸元より、低かったはずのボールが少し上がった気がした。


(――えっ、これは! ライズボール!?)

 

 わたしのバットはボールにかする事もなく空を切る。それを見た審判はコールする。

 

「ストライーク!!」


 ストライクを取られたことよりも、驚いたのは相手ピッチャーの投げたライズボールだ。初めて対峙したが、まさか本当にホップしてくるとは……。


 通常、投手が投げたボールは初速から徐々にスピードが落ち、キャッチャーが捕る頃にはリリースポイントより重力に負けて下がっていく。イメージとしては放物線を描くかんじだ。しかし、ライズボールはバックスピンをかけて重力に逆らうようにして投げる。そうすることで実際にホップはしないものの、バッターからするとそう感じるほどの伸びがあるボールだ。

 

 つまり通常の球に馴れたバッターほど、そのボールの軌道に対処できず、打ったとしてもボールの下を叩いてフライを打ち上げてしまう確率が高くなるのだ。


 そんなボールを見て、わたしは興奮していた。すごい相手と対戦している喜びに自然と口角が上がってしまう。


「――タッ、タイムっす!」


 そんな感情のわたしをよそに、相手キャッチャーが三度目のタイムをかけピッチャーの元に向かった。


(またタイム? 次はなんなんだろ? いや、いくら気にしてもしょうがない。カウントはツーストライク、ツーボール平行カウントだ。後がないのはわたしの方。次からはストライクゾーンを広く、きわどい球は全部打つ!)


 目はもう慣れている。ストレートなら対応できる。でももし、ライズがきたら? いや、相手が本気の勝負を望むならカウントが有利な次の球だ。わたしは次のストレートを狙う。上手く打つだけではダメ。しっかりと芯をとらえないと勝ちはない。


 タイムが終わりキャッチャーが座る。それと同時にわたしもバッターボックスに入った。


(――あ、勝負してくる)


 相手ピッチャーの目を見たときわたしの感覚はそう言った。

 この一回の打席の中の駆け引き、読み合いがあったせいか、なんとなくだけど相手ピッチャーがそう思っている気がした。


 相手ピッチャーが投球動作に入る。そのモーションは間違いなく今日一だった。

 踏み込みは跳ぶように大きく、回る腕にも力みはないように見えた。


 放たれたボールはど真ん中、力のあるボールだった。


(――わたしはっ! 負けたく……ないっ!)


 わたしはそう思いながら、短く持ったバットを最短距離で力強く振り抜いた――。


――カキーーーンッ!


 

 

 鳴り響く金属音と共に、打球はまるで翼が生えたように大空へ高々と上がる。

 

 ホームランを打った人たちはこぞって言う。打った感触がしなかったと……。わたしはその感触を今日、このソフトボール大会で初めて知った。

 気持ちが良かった。爽快だった。本当に悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらい。


 白球は、外野の後ろに並べられた赤いカラーコーンを越え地面に落ちた。その瞬間、ベンチからは歓喜の声が上がった。紛れもないホームランだった。

 

 ダイヤモンドを一周してホームベースを踏んだところで主審が声高々と宣言する「ゲームセットッ!」と。

 

 わたしのクラスB組は優勝した。

 正直、その後のことは良く覚えていない。

 

 ただ、一つ言えることは、相手のピッチャーの視線は間違いなくわたしに向いていたということだ――。

いやぁ、勝負になると人は変わるもんですね。

アドレナリン出まくりって感じです。


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